第12話 こんな世界、信じられますか?


俺の言葉に田原さんは笑わなかった。

以前、中古販売ショップでのことだ。

異世界漫画の列で立ち読みしてる田原さんを見かけたことがあった。

俺も立ち読みしていた。

だから、もしかしてこういったネタも大丈夫かもと思っていた。

ビンゴだ。

「田原さん・・ステータスオープンって言ってみてください」

笑われてもいい。

でも、田原さんには生き残ってほしい。


田原さんは完全に驚いている。

!!

「こ、これは・・ステータス画面ですか・・」

田原さんは誰に言うでもなくつぶやいていた。

「どうやらそうみたいです。 私も、今朝起きて気づいたもので・・」

俺もおそるおそる答えてみる。 

嘘は言っていない。

ただ、人よりも非現実的なことを妄想していただけだ。

だからこそ初動が早かったのだと思う。

それが正しいのかどうかはわからない。


田原さんはステータス画面を見つめている。

「田原さん、その画面ですが本人しか見えないらしいのです。 そして、ステータスがどうなっているかはわかりませんし、聞きません。 ただ言えることは、レベルを上げないとやばいんじゃないかと思うんです。 そう思って俺は優と行動しているのですよ」

俺は田原さんを見つめる。


田原さんは何やら考えてるようだ。

少しして、真剣な顔で聞いてくる。

「具体的には何をしているのですか?」

田原さんは受け入れれたのか?

「魔物と思えるものを見つけて、倒しています。 倒すと経験値が入って、レベルが上がるみたいなのです。 ほんとにゲームの世界のようになっています・・たぶん・・」

俺もわかる範囲で正直に答える。 

そして付け加えた。

「レベルが上がれば確実に強くなってます。 それだけは言えます」


田原さんは、片手を顎に当てて何やら考えていたようだが、しばらくすると顔を上げてお礼を言われた。

「そうですか、ありがとうございます」

いやいや、お礼を言われることはしてない。

こちらこそ、いつも子供たちが遊びに行かせてもらってお世話になってます。


俺は慌てて手を顔の前で振って恐縮した。

「いえいえ、お礼なんてとんでもない。 それよりも田原さん、俺の話を信じてくれたのですか?」

「えぇ、もちろんですよ。 外を見れば妙な雰囲気ですし、今みたいに魔物のようなものが徘徊している。 夢とも思えませんし・・ね」

田原さんは案外冷静なんだな。

俺の方が驚いた。

まさか、すんなりと受け入れてくれるとは。

「そ、そうですか・・私たちもとりあえず家に帰りますね」

俺たちはお互い軽く頭を下げ、それぞれの家に向かう。


俺は振り返って田原さんの背中をチラっと見る。

田原さん、俺のレベルとか状況をあまり聞かなかったな。

どう思っただろう?

ステータス画面が出なかったらどうしようかと思ったが、表示されたようだ。

俺は改めて思う。

やはり現実だったんだ。


「おやじさん、風吹のお父さんとか大丈夫かな?」

歩きながら優が不安そうに聞いてくる。

「そりゃ、わからんな」

俺は前を向いて答える。

「え? わからんって・・」


優は失望しただろうか。

だが、俺もまだよくわかっていない。

確かにレベルが上がれば強くなるだろう。

そして生き残る確率が上がる。

でも、それは個人の見解であり問題だ。

そんな個人の力をあてにされ出されたら、俺はまず拒否するだろう。

人のことは構っていられない。

家族だけで十分だ。

それに目に映る、自分と関係ある人たちだけ。

それ以外は、余裕があれば手助けしてもいい。

その程度だ。


無責任すぎると言われるかもしれない。

でも、他人を守る責任なんてない。

はっきりいって、そんなのをあてにしてる連中は見捨てることができる。

1度助けたら2度3度・・際限がなくなって、最後には自分の命を落とすだろう。

異世界勇者の最期を見るようだ。

勇者の使命なんて背負いたくもないし、なりたくもない。

ただ、それを優たちはどう思うだろうか。

そこが心配だが、その時が来たら俺は遠慮なく自分を優先させるだろう・・たぶん。

俺もまだまだ不安定だな。

そんなことを考えていたら、家の前に到着。

優もそれ以上は聞いてこなかった。


俺たちは家のドアを開け中に入る。

ふぅ・・ホッとする。

ん?

何やら、ばあちゃんのリビングが騒がしい。

でも、外から帰ってきたらまずは手洗いとうがいだな。


ばあちゃんたちのところへ行くと颯が興奮していた。

「テツ! テツ! 頭の中にレベルが上がりました、経験値を獲得しましたって聞こえて・・」

颯の声に重ねるように凛も興奮していた。

「パパ、凛もね、レベルが上がったって聞こえたよ! も聞こえたよ!」

・・

じいちゃんは孫を見ながらにこにこして座っていた。

眠ってないよな?

ばあちゃんも動じていない。

こちらは余裕か?


ん?

そういえば、優が倒したのって1体だけだったよな。

そうか!

レベル3の個体だったからか。

ということは、嫁と凛はレベルが1つしか上がってないだろう。

あれ?

嫁は上がってないんじゃないか?

そんなことを考えつつ、俺は無事戻って来れたことをうれしく思った。

ようやくばあちゃんがお帰りと言ってくれた。

なんか涙が出そうになる。

嫁は相変わらず何も言わないな。


長男(14):ゆうLv5(盗賊)

次男(9):はやてLv5

長女(6):りんLv2

嫁(35) :あずさLv3

じいじ(71):あきらLv5

ばあば(71):しのぶLv5


それぞれのレベルはこんな感じだ。

嫁がなんで私だけレベルが上がってないのって、少しムッとしていたがタダで経験値を得たんだ。

ラッキーだろう。

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