第9話 レベル差ってすごいな!



優の前方3メートルほどのところで、ロンリーウルフを俺が横から蹴り飛ばした。

忍び足のおかげか俺には気づいていなかったようだ。


「ってめぇ、いきなり優に襲い掛かるのかよ!」

俺は叫ぶと同時に行動していた。

手加減するつもりだったが思いっきり蹴った方向へ転がって行く。

一撃だったようだ。

ロンリーウルフはしばらくして蒸発する。

俺が石を拾って優を見てみると、まだ固まったままだった。

「優! 優!!」

やや大きな声で俺が名前を呼ぶと、ビクッとしながら動き始めた。

「魔物が消えた・・」

優がつぶやく。

「そうなんだよ、どういう原理かわからんが倒すと消えるみたいなんだ」

俺も返答しながら優にロンリーウルフの石を手渡す。

「優、ステータス画面を出してこの石を近づけてみな」

優は素直に石をステータス画面に近づけていく。

ステータス画面に触れそうになると、画面に石が吸い込まれる。


「うわ、石が吸い込まれた!」

優が驚いている。

「その石が、どういう条件かわからんが基礎ステータスに影響す・・」

俺がそこまで言った時だ。

!!

説明を終える前に、ゴブリンの単位がこちらへ速度を上げて移動してきている。

LV3。

やはり前の時と同じように、ロンリーウルフを先頭にゴブリンがいるようだ。

俺の索敵も意識してないと表示されないからな。

俺達から見て左に1単位、右に2単位の集団でいる。

さっきは5単位だったが。


「ステータスがよくなるの?」

優が次の言葉を待っていたが、それどころではない。

俺が石を出すタイミングが悪かったな。

「すまん、次の敵がきた。 話は後だ。 ゴブリンが近づいて来ている。 簡単に言うと、ロンリーウルフ1体の後ろにゴブリンが5匹くらいくっついてくる。 これが4単位いる」

俺が説明すると、少し驚いたような顔で優は聞いている。

普段なら俺の言うことなんてあまり聞かないのだが、今は違うようだ。

「で、これを全部倒す」

俺は当たり前のように言う。

「全部?」

優が驚く。 

俺は説明を続ける。

「あぁ、全部だ。 そうしたらボスが来る」

「ボス?」

「ワーウルフって強いボスが来る」

そこまでしか話はできなかった。

ゴブリンが来た。


左右にもロンリーウルフ、ゴブリンの単位がいるので俺が倒すことにした。

「優・・まぁ見てろ」

俺はそう言ってゆっくりと息を吐く。

レベル3のゴブリン。

こいつらは相手の強さがわからないのかな?

俺がスッと前に出て一気に片づけた。

どれも1撃で倒せる。

1匹のゴブリンがピクピクしていた。

「優、そいつを棒で突け!」

俺は優に声を飛ばす。

優はわけもわからないだろうが、とりあえず棒で突くことはできたようだ。

ゴブリンは蒸発して消える。

同時に頭の中に経験値獲得の天の声が聞こえたようだ。


「おやじさん、頭の中に声が聞こえて、レベルが上がったって言ってるよ」

優がやや興奮しながら言ってきたが、後回しだ。

とりあえずこの集団をすべて倒さないと落ち着けない。

「優、次は左の1単位のロンリーウルフとゴブリンを倒すぞ。 時間をかけれないから、俺が倒してみる。 止めが出来そうなやつがいたら頼むな」

俺がそういうと優は力強くうなずいてくれた。

すぐに優を連れて移動する。

しかし、相手にも気づかれるようだ。

なるほど・・やはり忍び足のスキルか。

そう思うがどうしようもない。

とりあえずレベル差があるから俺が中心で倒せば何とかなるだろう。


優の移動速度に合わせながら近づく。

そのまま止まらずにロンリーウルフが見えた瞬間、俺だけが一気に加速した。

ロンリーウルフの横に回って蹴りを繰り出す。

倒れたところを踏み抜く。

そのままゴブリンへ向かう。

レベルは2~3の単位。


優もついてきているようだ。

マップ上にはきちんと優が表示されてる。

安心だな。

それだけ確認すると、ゴブリンを片づけた。

これだけレベル差があると問題にならないようだ。


石を拾って優のところへ戻る。

「はぁ、はぁ、はぁ・・おやじさん、速すぎるよ」

優が息を切らせながら言う。

「まぁ、仕方ないじゃないか。 それよりすぐに次に向かうぞ。 ワーウルフが来たらやばいからな」

「はぁ、マジかよ・・」

優が少しうんざりしていた。


石は優に取り込ませて、優の速度で移動する。

残り2単位のロンリーウルフとゴブリンだ。

少し考えてみたが、やはり俺が倒した方が早いな。

まだ優にやらせるには怖い。

そう思うと、ある程度近づいたら俺が一気に加速して仕留めていく。

・・・

討伐完了!

ワーウルフが来るまで少し時間があるだろう。

優のステータスを確認してもらった。

レベルは4になっていたようだ。

拾った石は全部優に取り込んでもらう。


「職業はどうだ?」

優に聞いてみると即答。

「職業は、まだ住人だよ」

優も気になっていたらしく、たまにステータス画面を見ていたようだ。

「やっぱりレベル5にならないと職業を選べないようだな」

俺の言葉に優がしっかりとした顔で返答。

「それより、頭の中で経験値を獲得しましたってうるさいよ・・」

「あぁ、そうだな。 でも、そのうち気にならなくなるよ」

俺はもう気にならなくなっていた。


優も少しずつ慣れてきたのか、本当にゲームをやってるみたいに生き生きしてきた。

危ないなぁ、遊びじゃないのだが。

「優・・ゲームじゃないからな」

うるさそうな顔をしつつも活気がある。

「わかってるって。 でもなんか楽しい・・」


ピ!

索敵に引っかかる。

来たな!

ワーウルフ:Lv8

俺のマップに表示される。

時間は7時20分。

周りの状況を確認。

通勤している車だが、あまり見かけないな。

ラジオ放送でも、みんな聞いたのかな?

俺はそんなことを思いながら気合を入れる。

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