第151話 組み技の間合い

 零は説明を開始する。


「打撃系の格闘技には、それぞれ間合いがあります。パンチだけの競技と蹴りが許される競技が間合いが違うように……」


「……うむ。それはわかる」


「ならば、組み技にも組み技の間合いの差があります」


「組み技の間合いの差?」


「わかりやすく言えば、柔道のように組む間合い」と零は組み付くような動作を行う。


「次は極端な例として相撲の間合い」


「むっ……そうか」と高頭は納得する。


 相撲の間合いは、互いにマワシを掴み合うため距離が近い。胸と胸をぶつかり合うように間合いになった。


「このように相撲の間合いでは柔道技は出せないとは言いませんが、普段通りにはいきませんよね?」


「なるほど、打撃系でもクリンチの間合いで柔道技は使いずらいと?」


「はい、もちろん、それだけではありません。総合格闘技にも組み技の間合いというが存在しています」


「総合の間合い?」


「えぇ、総合格闘技の組みはレスリング、グレコローマンの組みに近いですね」


 零は両腕を高頭の腋の下へ通す。


「この状態が総合格闘技では有利と言われる組みです。互いに片腕づつを腋のしたに差し合えば互角」


「なるほど、なるほど……」


「まぁ、組み技系に詳しい高頭さんに教えるには釈迦に説法でしょうが……」


「いやいや、俺は感覚派だからね。口頭で説明されると面白くてね」


「そう言われるとありがたいですね」と零は微笑んだ。


 そういうやり取りがあり……次の試合が始まる。


 鉄塁空手から出場したのは背の高い男だった。


 整った顔、所謂イケメン。


 それだけで彼が高いディフェンス能力の持ち主だと言う事がわかる。


 格闘家としての適正体重より軽めに見える。加えて長い手足。


 観客から黄色い声援が飛んでいる事を考えれば、そこそこの有名選手なのだろう。


 だが、この試合の主役は彼ではない。続いて入場してきたTEAMアスカ側の選手。


 彼の姿に会場が騒めく。


「流石に空手関係者ぞろいの会場だ。みんな誰が出て来たのか知っている」と高頭は満足そうだった。


「……まさか、彼がTEAMアスカに入っているとは思ってみませんでした」


 零はセコンドの立場から、自陣の選手を見上げる。


 空手着を身に着けている少年。 帯は黒色……もちろん、黒帯だからと言って、空手の団体によって昇格試験の難易度は違う。


 しかし、使い古された帯から実力者であろう……と伝わってくるものがある。


 ――――いや、実を言えば会場の多くは少年の事を知っていた。


 フルコン空手の大手で、東京代表として全国大会の出場を決めた選手だったからだ。


 


 


    


 

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