第152話 蛭田要対皇 蒼馬

 イケメン……蛭田要は不機嫌だった。


 自分の試合。入場では盛り上がり、女性から声援があがった。


 しかし、なんだ?  対戦相手が出て来た時、会場はどよめきが起きた。


(……誰なんだ? こいつは)


 睨む。 相手は空手着を着て、正座して待機している。


 いくら睨んでも目を閉じている相手に無意味だろう。それはわかっていても睨まずにいられない。


 自意識の高さ。 


 美意識高い系。


 目立ちあがり屋。


 それが蛭田要の最優先する行動原理。 要するに彼はナルシストなのだ。


 リングネームも『ナルシスト要』にした。


 子供の頃から蛭田なんて名字が嫌いだった。 蛭が田んぼにいる? ……美しくない。


 それを馬鹿にされた結果、ナルシストになった……少なくとも本人である要は、信じている。


 空手着の奴が目を開けた。 静かに立ち上がる……やはり、身長は低い。


 手足……打撃のリーチ差は比べるまでもない。


 相手の名前は読み上げられる。 空手着の名前は――――


 皇 蒼馬


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


(皇 蒼馬? すめらぎ そうま…… なんだ? そのかっこいい名前は? まさか、まさか、本名じゃないだろうな!?)


 要は沸々と怒りが湧いてくるの実感する。


(そんなカッコいい名前を呼ばれ、当たり前だと思って澄ました顔をしてやがる。絶対に許せない)


 蛭田要にとって、それだけ名前は神聖な物であった。


 だから許せない。 試合開始が告げられると同時に――――


 蹴りを放った。


 その蹴り。観客席からも驚きが混じった感想が飛び。


「届くのか? あの距離で?」


「……とんでもないリーチを持ってやがる」


 要が試合開始と同時に放ったのは前蹴り。 しかし、試合開始位置での互いの距離は4メートル近くも離れている。


 もちろん、要の足が蹴りと同時に4メートルも伸びたわけではない。


 大きなステップイン。 体の使い方。 

 

 つまり、恵まれた体型と技術も持って、4メートル先の相手に攻撃を当てたのだ。


 「むっ!」と前にでようとした蒼馬の動きが止まる。


 さらに要の前蹴り。 


 ただ遠くから当てる事で、相手が前に出る事を防ぐための蹴り。


 ダメージは少ない。 守りを固めて蒼馬が強引に進んで行く。


 しかし、簡単には距離を詰めらない。


(来いよ。もっと、強引に、我慢できずに前に、前へと……そこで俺の必殺技を食らわしてやる)


 要がニヤリと笑っている。 それを見た蒼馬は、果たしてどう感じたのだろうか?


 

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