第150話 九条五六対谷川勝彦③
組み技の専門家であるはずの谷川。 なぜ、九条が投げれたのか?
誰よりも混乱しているのは投げられた谷川本人だ。
だから、不用意に立ち上がる。 ……その姿は隙だらけ。
だから――――一撃が入る。
無防備と言える状態から九条の拳が叩き込まれた。
(――――なっ!) と一瞬、意識が飛んでいた事に谷川は気づく。
追撃は来ない。 見れば、殴った九条本人も驚いたような顔をしている。
(俺も悪い。投げられたから試合が止まる競技ではない……わかっていたが無意識に立ち上がってしました。だが、お前はなんだ?)
怒りのまま、谷川は構え直す。
(この俺を殴り倒しておいて、何を驚いている。 ……認めよう。俺も覚悟ができてなかった。けど、お前も出来てねぇじゃねぇか!)
谷川は前に出る。 間合いが打撃になると連撃を行う。
確かに打撃に自信を持っていてもおかしくはない動き。
柔道家だったとは思えないコンビネーションだ。
だが、一瞬の隙を突いて九条の打撃が入る。
両者の動きが止まった。
(――――コイツ、威力は俺以上だ。拙い打撃だが、一撃一撃が重い)
相打ち。それは不利かと谷川の脳裏に浮かんだ次の瞬間――――九条が組み付いて来た。
(また、この体勢に……なぜ、俺が投げで後れをとるんだ!)
マットに叩きつけられた谷川。 慌てたように立ち上がる。今度も無防備に――――
(食いつけ……これは罠だ。 ほら……来た!)
殴りに来る九条に対してカウンター。 殴った衝撃が拳に残る。
そして、九条は倒れていた。
(行くぞ! 寝技だ……いくらなんでも罠の可能性はない。柔道家の俺より寝技は優れている事はないだろ)
谷川は上を取る。 すぐにパウンド……上の位置から殴りには行かない。
まずは落ち着いて有利な状態を整える。攻撃はその後からだ。
上から覆いかぶさるように……マウントは取れない。 しっかりと九条の目には意思が宿っている。
ガードポジション
下から谷川の胴に足を絡めて、動きを制限させてくる。
さらに九条は下から谷川の喉元に腕を差し込んでくる。
前腕で喉を押さえつけるシンプルな技。 しかし、それが変化する。
袖車
本来は柔道の絞め技だ。
しかし、技名に入っている通り、道着の袖を使って相手の頸動脈を絞める技。
道着ではない九条が仕掛けても効果は薄い。
さらに鍛えられたフィジカル。 首の力が加えられ、絞めに隙間が生まれる。
そこからは、簡単に腕力で絞め技から脱出。 さらに――――
(寝技の重要性が増した近代柔道家を舐めるなよ。ソーゴーやジュージューツ程度の技は研究して当たりまえなんだぜ!)
谷川の胴に巻き付かれたガードをアッサリこじ開けてのパスガード。
マウントポジションを奪うと下で暴れる九条に拳を振るう。
全力ではない。正確に、コツコツと拳を落としてくる。
しかし、途中で谷川は拳を止めた。 リングに白い布が舞い落ちていくのを見たからだ
そして、それはTEAMアスカの敗北を認める白いタオルの投入だった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「これまでですね」と零。 高頭と零の2人は冷静だった。
「後学にきいておきたいのだが……」
「なんですか? 高頭さん?」
「どうして、九条は谷川を投げれた? 組み技のレベルじゃ大人と子供くらいの差があるはずだぞ?」
「それですか? 簡単なことですよ……むしろ組み技なら高頭さんの方が詳しいと思いますがね」
零は立ち上がり高頭に向かった。
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