第149話九条五六対谷川勝彦②

(なぜ倒れたのか?)


 谷川は自問自答していた。


(いや、考えるな)


 打撃の攻防は一瞬の隙が決着を向かえる。


(わかっている。 しかし、切り替えれない)


 あれほどまでに練習した。 なんせ鉄塁空手の本部で飯を食わせてもらっている身だ。


 練習相手は数百人いる。 当たり前だが、打撃のスペシャリストだ。


 しかも空手だけでじゃない。 ボクシングやキックもやってる奴もいる。


 初めて聞くような謎の格闘技の使い手もいた。


 あの時間は無駄だったのか? 俺は――――


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


(組んでくる)


 谷川の相対している五六は、すぐに察した。


 雰囲気? 僅かな体の動き? 表情の変化?


 そういう変化が読み取れるのだろうか?


 谷川が前に出てくる。 腕を伸ばして組んで――――いや違う! 打撃だ。


 想定外の打撃。 


 直撃を受け、五六の体が腰から落ちように――――


 いや耐える。 ダウンを拒否する。


 そのまま谷川の打撃が止まらない。


(へっ! そのまま組みに来るとでも思ったか? そんなわけないだろ)


(組み技を狙うからって、素直に組むわけないだろう)


 谷川の連撃。 


 組み技を狙う。しかし、最初から打撃を織り交ぜて組みつもりだった。


 その打撃が直撃した。これは谷川にとっても想定外。だが、打撃で倒せるなら打撃で――――


 (投げるならダメージを重ねて――――ここ!)


 谷川の打撃が変化する。 組み技――――と言っても五六は道着を着ているわけではない上半身は裸だ。

 

 それでも組む方法はある。


 相手の首を掴む。 とは言っても、直接首を絞めるようにするわけではない。


 所謂、奥襟と言われる組み手。 相手の首後ろに腕を回すように組み。


 だが、その動作は打撃のスピード感と比べれば――――遅い。


 五六の打撃が谷川の頬を叩いた。


 直撃。 120キロのスーパーヘビー級の肉体から繰り出された打撃。


 それでも耐えた。 全ては投げのため。


 気合の咆哮と共に投げへ――――しかし、それはできなかった。


 何が起きたのか? 谷川自身にもわからない。


 視点が180度回転して背中に痛み――――衝撃が走り抜けた。


 遅れて自身の身に起きた事を理解する。


 (――――投げられたのか? この俺が!?)


 その事実が谷川を突き動かせる。 飛び起きるように立ち上がる。


 

 


 

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