第143話遠芝弥生と戸塚師騎①
リングで対峙するのは遠芝弥生と戸塚師騎の2人。
対峙すればよりわかる両者の体格差。
上半身を露出した遠芝弥生は細かった。
まるで運動経験のない高校生のような肉体。 よく見れば、鍛えているのが確かにわかる。
対して、戸塚師騎も細身ではある。 しかし、肉の厚みを感じさせる筋肉。
もしも仮に他のアスリート、例えばサッカー選手と並んでも見劣りする事はない。
「本当に戦うのですか? この2人で」と思わず聞いたのはリングの下から見上げる零。
「もちろん、普段からやってますよ? スパーリングくらいなら」
そう平然という高頭に「馬鹿な」と呟く零。
零から見た弥生の体――――
(約50キロ前半の体重。 師騎とは約20キロ差ほど……試合なら間違いなく成立しない差だ)
しかし、零の横にいる高頭は、無造作に『カーン』と開始の合図である鐘を鳴らした。
試合はゆっくり、ゆっくりと互いの間合いを縮めていく両者。
先手は零。 長いリーチ差を利用してジャブを飛ばす。
2発……3発……とジャブがガードの上に当たる。
不意に師騎が放つジャブに変化が起きる。同じモーションでありながら、強い力が込められた。
ガードして受けた弥生がバランスを崩す。
予期せぬ事態に弥生のガードは開いた。 そこに師騎は拳を叩き込む――――右ストレート。
「――――っ!」と見てる者が息を飲む瞬間。
当たれば、試合が終わっている。 しかし、弥生のガードが辛うじて整い直せていた。
「体格差……拳に伝わる力が違う。だから、こういうことが起きる」
「~ん? どうぞ、解説をお願いします零さん」
「……攻撃に圧力が違う。だから、体格に劣る側は、体を押されたような感覚となりバランスを崩す」
「ほら」と零は指さす。
師騎が次に放ったのは前蹴り。 見た目では通常の前蹴り。
しかし、強い力が込められていたのだろう。弥生の体、ロープ際まで下がる。
そして、前に出た師騎が再びストレート。 またしても弥生のガードが間に合うもギリギリのタイミングだった。
「バランスを崩すという事は、選手に取って予期せぬ状態。 そこに追撃を食らうというのは不意打ちを受けると同じことですよ」
「ほう……
「1ラウンド3分なら、5回は不意打ちを食らってますね。最初の2回もKOされなかったのは運がよかっただけと言い切れますよ」
「へぇ~ そんなもんですか?」
「なに?」と零は高頭の態度に眉を顰めた。
「はっはっ……あまり、うちの弥生を舐めないでくださいよ」
「――――ッ」と突然の剣呑。
「いやいや、少し言葉がきつかったですかね? でもね、零さん……見てやってくださいよ。ほら……」
高頭の言葉に零は視線をリングに戻す。すると――――
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