第142話 TEAMアスカの日常 

 戸塚は頭に防具を被っている。


 スーパーセーフ。 空手用で頭部を守るための白い防具だ。

 

 ボクシングなどのヘッドギアとは違い頭部全体が保護され、視界は透明な素材で開かれている。

 


 対するの佐々江零。 彼は素面で構えて――――

 次の瞬間、戸塚の視界から零が消えて見えた。


 刻み突き


 パチっと軽い音が顔に当たる。次の瞬間、遅れて衝撃。


 重さが伝わり、戸塚はバランスを後ろへ崩しそうになり倒れかけた。


「わかりましたか?」と零は軽い感じに問う。


「打撃の重さ、衝撃が遅れて来た。おそらく、打撃を当てた後……着地の瞬間に下半身の動き」


「流石に理解が早いですね。 刻み突きで素早く飛んで突く。 着地よりも早く拳を当てて――――着地の瞬間に下半身の動きを入れる」


「腕を伸ばし切った後から下半身の力を入れる……中国拳法の寸勁。ワンインチパンチみたいだな。しかし――――」


「しかし? なんですか?」


「良いんですか? 貴方の代名詞みたいな技をアッサリ教えても?」


「いいんですよ」と零は笑う。


「試合なり、本番なり、そう多用する技じゃないです。一度、使うか? 使わないか? 相手に、そう思わせて警戒させたら――――楽じゃないですか?」


「へぇ~」と戸塚は言葉を続けようとしたら、


「やってるな」と高頭が入って来た。


「えぇ、やってはいますが……他のメンバーはいつ来るのですか?」


 零の言葉に、高頭は頭を掻きながら


「うちは放任主義だからな……深夜とかなら集まって勝手に練習してるのさ」


「はぁ」とため息を1つ。 


「わかりました。 また夜に来ましょう」


「そうそう、それでおたくの鉄塁空手の5対5マッチ……出場選手とか、誰が出ると思います」


「そうですね」と零が考え始めた。 どうやら、身内の不利など気にしている様子はなかった。


「うちは今、門下生が増えてます。でも、空手を習いたいわけじゃないんです」


「空手団体に入門するに空手を習いたいわけじゃない? なんだそりゃ?」と戸塚。


 しかし、高頭は「はいはい」と頷いた。


「去年のトーナメントを見て、自分もやりたい……総合格闘技やユーチュバーになりたい連中が入ってきたのさ」


「その通りですよ」と零。


「元々、いろんな格闘技をやっていた人が表で活躍したい……その機会を求めて鉄塁空手に来たわけです」


「そりゃ、岡山館長も困るわな……あぁいう大会を年に2回はやらないと、人は逃げる」


「そうですよ高頭さん。館長はたぶん、そういった外様を出してきます」


「外様?」と戸塚は首を捻った。 どうやら意味がわからないようだった。


「そのまま他所から来た連中ですよ。館長は、総合格闘技をやりたくて入門してきた連中……それも、それなりの実績のある人間を出してくるでしょう」


「あー なるほど……鉄塁空手代表って良いながらレスリングとかボクシングの恰好の選手が出て、負けても鉄塁空手の看板は傷つかないわけだ」


「……最初から総合格闘技でアマ大会からプロを目指せばいいじゃないか?」


 戸塚の言葉に高頭と零は顔を見合わせて、笑いを漏らした。


「それは正しい意見ですが……意外とわからない人はいるんですよ」


「あぁ、昔はたくさんいたらしいな。K-1やPRIDEに出たくて、ボクシングジムに入門したって連中」


そんな話をしている最中だった。


「……ちわッす」と挨拶。 小さな声だった。


 遠芝弥生 小柄な少年だった。 


「弥生、リングに上がれよ。スパーやろうぜ?」と戸塚はリングに上がった。



 


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