第141話 戸塚師騎という男⑤

 岡山館長は蹴りを放つ。 戸塚の膝に狙いを徹底させる。


 関節蹴りだ。 受け方を間違えれば、一撃で戦闘不能になる。


(それが極まらなくてもいい。圧力で攻められなくなったら、こっちの攻撃も通るからな!)


 タイミングを計り、狙いを定めて――――右の突きを放つ。


 狙いは戸塚のアゴ。 下半身に意識を集中させてからの突きだ。


 絶対に反応できない。そういう確信を持っての攻撃。しかし――――


「何ッ!」


 空振り。 岡山館長の拳は宙を切った。


 戸塚は体を沈めて、回避したのだ。


「野郎……その体勢は――――」


 来るはずのない攻撃。 ――――いや、思考をコントロールされていたのだ。


 戸塚師騎の格闘技スタイルはレスリングが元になっている。


 それもフリースタイルではなくグレコローマンスタイル。


 だから、自然とないと思い込んでいた。


 グレコローマンならばタックルはないと――――


 だから決まる戸塚のタックル。


 視線を動かさず、深く沈み込むことで真っすぐに前進する。 相手の両足を掴んでも止まらない。 力強く、相手の体を持ち上げるようにして前進し続ける。


 それがタックルという技だ。 決してうまいとは言えない戸塚のタックルではあったが、それらの基本は徹底されていた。


 だから防げない。 打撃と喧嘩がスタイルの主軸としている岡山館長には――――


 背中を地面につけて倒れる。


「行かせてもらうぞ? 岡山館長」と戸塚は覆い被さるように動く。


「そうは、簡単にいかせねぇぞ?」と岡山館長は拳を固めて――――いや、そこで動きを止めた。


「?」と戸塚もつられて動きを止める。


「俺の負けでいいぜ」と突然、岡山館長は負けを認め始めた。


「何っ!?」


「悪いが寝技ってのは慣れてないんだ。 一応、危ない技は身に着けてるが……こんな喧嘩でもない慣れ合いで使う技じゃない」


「これは慣れ合いか? これは遊びか?」


「ひぇ~ 熱いね、若いね。でもねぇ――――簡単だよ?」


「何を言っている?」


「戦いの領域をもう一段上げたいなら、その拳をおじさんに今から叩き込めばいい」


「――――」


「おや? 黙っちゃったね……良いのかい? 遊びはこれで終わって?」


 さらに「――――」と無言で戸塚は立ち上がる。


 それに合わせて岡山館長も立ち上がる。


「いやぁ楽しい遊びだっ――――」と言いかけた岡山館長の言葉が止まった。 

 

 戸津が拳を叩き込んだのだ。


「てめぇ!」


「勘違いするなよ? 敗者が勝ち誇るな」


「――――っ! いいぜ? 面白いガキだな、高頭よ」


 急に呼ばれた高頭。再び戦いが勃発しそうな状態でも平然としながら、


「はい館長。どうしますか? このまま続けますか?」


「ん―――― いいや、もっと面白い遊びを思いついた」


「うちで俺を含めた5人連れてくる」


「5対5マッチですか?」


「おっ! 話が早くて助かるね。それじゃ3か月後くらいにしようか?」


「ん~ うちは戸塚と猿芝以外は、まだ表に出したくないのですが……」


「駄目かい?」


「いえ、まぁ3か月あれば……」


「OK それじゃ商談成立で3か月後。 詳しくは明日にでも話そうや」


「……わかりました」


 この日はそのまま解散になった。 そして、翌日――――

 

 

 

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