第140話 戸塚師騎という男④
カレリンズリフトという技がある。
アレクサンドル・カレリン、伝説的なグレコローマンのレスラーだ。
まるでサラブレッドのようだと言われる筋肉。 その腕力が抱えられ、捻りを加えて後方に倒れるような投げ。
通常、俵返しや動返しと言われるポピュラーな投げ技ではあるが……
130キロの重量級で決まる事はない。
無論、『カレリン以外は』――――と注釈が付く。
ゆえに一般的な俵返しをカレリンが使用した時のみカレリンズリフトと呼ぶのだ。
およそ80キロと想像される戸塚がこの技を使用してもおかしくない。
しかし、路上で首――――頸椎に強烈なダメージを受ける技を平然と……この男、戸塚師騎は実行した。
硬い地面のはずが岡山館長の大柄な体が弾んで見えた。
それを見た者――――戸塚以外は、ゾクリと寒気が走る。
(殺したのか?)
側近であり、岡山館長の強さを誰よりも知る零ですら――――
しかし、岡山館長は立ち上がった。
「へぇ~ 立つんだ」とどこか他人事の戸塚だったが……
「いいぜ? やりたいんだろ?」と岡山館長には剣呑な雰囲気が漂っていた。
「やりたい? 何を?」と戸塚は、そんな雰囲気に呑まれる事はなく平然と言い放つ。
「そりゃ、きみ~ 殺し合いさ」
「ん? 今まではのは違っていたの?」
「もちろん、違うさ。殺し合いなら、今まで使えなかった技も解禁できるからね」
「おじさんにもあるんだ? さっきの俺の投げ技みたいなのが」
「ほら」
「ん?」
「それ認めちゃったね。殺すつもりで技をかけたって」
「え~ そうなるかな」
「なるさ。 ――――いや、正直に言うとそう言う事にしてもらわないと、おじさんも本気を出せないからね」
「それじゃ、おじさんが本気を出したらどうなるの?」
「そりゃ、えげつない技を使うよ。観客とか、スポーツ会場とか、他人の目を気にしちゃ使えない技を……ね?」
「そう……それは楽しみだ」
「あっ解禁許可出しちゃった。それじゃ君の事、潰すとしよう」
「あれ? 自分が潰される場合は想定しないんだ」
「そりゃそうだ。 だって――――強いからね」
言うと同時、強烈な前蹴り。 確かに今までの前蹴りとは違う。
トーキック。
末端である足のつま先も真っすぐに伸ばしての蹴り。
硬い靴を履いての蹴りは、ガードした腕にも甚大なダメージを与える。
厄介なのは――――
「くっ! 避けれないか!」
戸塚は、それでもガードしなければならなった。
真っ直ぐ、体の中心を狙ってくる前蹴りを避けたり、弾く行為は難しい。
だから――――
(やはり、接近戦。 組み技に持ち込んで一撃で決める)
(――――なんて考えてるだろうけど、お見通しさ。近づけさせないよ)
両者の思惑は真逆。
接近したい戸塚。
距離を維持して攻撃を続けたい岡山。
そして――――両者の思惑は――――
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