第137話 戸塚師騎という男

 高頭の合図に控えていた影が動く。


 どうやら、零との戦いを気づかれない位置まで離れて見ていたらしい。


 その影に向けて岡山館長は


「あん? なんでぇ? お前等は5人組じゃないのか?」


 その指摘通り、姿を見せたのは2人だけだった。


 1人は遠芝弥生という男だった。 


 過去に狂馬という半グレ相手に制裁マッチのようなものを配信した男……TEAMアスカとして最初に動画が公開された少年だ。


 小柄で中性的な容姿だが、最初の動画で相手を殴り倒し、そのまま腕を折っている。


 もう1人は、岡山館長も、零も、初めて見る男だった。


 おそらく20代前半の青年。 身長は180センチほど、平均的な日本人男性よりも、10センチは高い。


 体重はミドル級……いや、もう少し重いだろう。 80キロはないくらいか?


 見た目でわかる。鍛えられている肉体。


「さて――――」と高頭。「とりあえずは2人。自信を持って紹介できるのは」


「はい! 自己紹介、自己紹介……弥生ちゃんの動画は2人は見てくれましたか?」


 頷く2人。


 「さ、猿芝……猿芝弥生です。えっと……特にありません」


 それだけ言うと弥生は下がった。


「……ん~ 弥生ちゃんには、もう少し自信をつけてほしいですけどね。さて、続いて戸塚くん」


「戸塚だ。戸塚師騎……」とだけ言って前に出る。


「どちらでもいい。この場で立ち会いたい」


 ジロリと睨みつけるような挑発の視線。 


「あっちゃ……顔見世には早かったかな? 流石に零さんは戦ったばかりなので」


「いえ、私は構いませ――――」


「いや、俺が行かせてもらうぜ?」と零を遮り、岡山館長が前に出た。


「幸い、似たようなタイプだな? 上品な格闘技よりも、マクドナルドや吉野家みたいなお手軽でウメェ喧嘩が好きってタイプだぜ?」


「面白い例えだ」と師騎は――――


「おっと危ない。いきなりジャブで顔面を殴ろうとしたね?」


「駄目だったか?」


「いいや? 路上じゃ挨拶だろ? それじゃ交流を続けようじゃないか」


「アンタ、好きなタイプだ。 イチイチ喋らなきゃね」


「くっくっく……」と苦笑した岡山館長。「失礼、歳を取るとこういう会話が楽しくなるのさ――――ね!」


 最後に強めた口調に合わせて上段回し蹴りが放たれた。


 上半身を反らして、回避した師騎は獰猛に嗤った。


「年寄りとは思えないほどに喧嘩向きだな」


「かぁ――――外しちまって恥ずかしいのに、そのうえ年寄り扱いかよ? それじゃ、ちょっと若い奴の良い所見てみたい!」


「―――じゃ、行かせてもらうよ」   


 

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