第122話 ヘビー級とのスパーリング
「ここで、一番強い奴は誰だ?」
その聡明の言葉に、練習生たちは顔を見合わせる。
すると――――
「俺だ」と手を上げる巨漢がいた。
「お前か……そりゃ、そうだ」と聡明は見上げる。
「俺の事、知ってるのかい? チャンピオン、こりゃ光栄だ」
立候補した男の名前はトール渡辺というリングネームの選手だ。
100キロ近い体重。 キックでも珍しいヘビー級の選手。
「スパーリングはできるかい?」
「おいおい、正気ですか? ミドルのアンタじゃ30キロ近く体重差があるぜ」
「試合じゃ体を絞っている。 ナチュラルなら80……今なら90近くある」
「へぇ~ そうですか……」とトールは近くの練習生へ「おい、今日は会長が留守だったな」と尋ねる。
練習生が頷くと、「グローブとヘッドギアを貸してやれ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
リングの上、聡明は軽いアップをする。
そして、自然と両者が体を止めて向かい合う。
体格差。 鍛え抜かれた競技者で10キロ以上の体重差があれば、大きな違いが生まれる。
体の分厚さ。手足の長さ。 そして基本となる筋量。
「やっぱり、外してもいいか?」と聡明。
「あん?」
「ヘッドギア……見難いんだ」
「……上等じゃねぇか。おたくが言い出した事だ。怪我しても治療費は払わんぜ」
「構わんさ」と聡明はヘッドギアを外す。
ざわめきが起きる。 やってきた聡明が大きなサングラスをしていた理由もハッキリする。
その顔には大きな傷があった。 目元や額の間に……
「あんた、その傷は……」
「これかい? 昔のダチに傷つけられた後さ」
「――――まぁいいさ。おい! だれかゴングを鳴らせ!」
ゴングが鳴らされる。
ゆっくりと互いの間合いは縮まり――――先に手を出したのはトールだった。
ジャブ。 様子見や間合いを測るためのジャブではなく、最初から当てに行く。
一撃、二撃とガードの上に被弾。
「すごい」と誰かが呟く。 放ったトールではなく、受けた聡明への評価だ。
彼等もトールの練習を見たり、一緒にスパーリングをする。
しかし、100キロを超える選手はトールだけ……
だから、わかる。 その圧力に対して下がらない聡明のフィジカルの強さ。
さらにトールはローを入れ、右ストレートを放った。
渾身の一撃。 その手ごたえは確かにあった。
だが、聡明の様子に少しのダメージを感じさせない。
「――――ッ!」とトールも驚き、本気になった。
どこかで、階級下の聡明を舐めていた。
本気を出したら可哀そう……そういう手加減が消える。
代わりに闘志。 必ず倒すという感情がメラメラと音を立てて生まれ出てくる。
灯った炎のような闘志。それを体外に発散するように――――
聡明へ襲っていく。
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