第123話 ジムでの連戦

 猛攻……それもヘビー級の猛攻だ。 


 乱打とも言えるパンチ。 そして時折、膝を叩きこむ。


 例え、同階級でもダウンは免れない。そういう種類の攻撃だった。


 しかし、聡明は倒れない。 それどころか……


 「トール先輩の攻撃が止まった? スタミナが切れるには……いや、首相撲! あの体格差で聡明が動きを制しているのか!」


 練習生の言う通り、トールの太い首に聡明の腕が回されている。


 そのまま、膝を1つ……2つ……3つ目はいかない。


 腕力で振り回すようにトールは投げられた。


 「てめぇ!」と立ち上がるトール。 


 そのまま、前に――――「このタイミングだ!」


 前に出したトールの足を払う。 空手、それも伝統派が使う足払いによく似ている。


 バランスを崩したトールに向かい、聡明はハイを放った。


 反射的にバランスを整えようとするトールは無防備だと言えた。


 だから、まともに食らう。ハイキック。


 体格差……しかし、その差は10キロ前後。 


 ならば、倒れる。強烈なハイキックならば……


 10カウント。 もはや聞く必要もなく聡明はリングから降りた。


 ――――いや、下りようとした時だった。


 「気はすんだ? 次は自分がスパー頼んでいいすか?」


 言ったのは練習生の1人。 背は聡明よりも高い。しかし、体重は聡明よりも軽そうだった。


 「……お前、名前は?」


 「響 悠真」


 「ふん……聞いたことある名前だ」


 「そうですか? まぁお手柔らかに……」


 「随分と顔が良いな」


 「関係ありますか? 顔の良し悪しって強さに」


 「あるに決まっているだろ? 顔が綺麗な奴は2種類しかいない」


 「後学のために拝聴したいですね」


 「顔に貰わないほど、テクニックがある奴……」


 「もう1種類は?」


 「何度も顔がぶっ壊されて、整形しなきゃいけなくなった奴だ」


 「ひぇ~ 怖い世界ですね」


 「ふん、前者と言ったところか?」


 「さて、僕の整形疑惑はリングで確かめてみたらいいじゃありませんか?」


 「あぁ、すまない。 すぐに始めよう」


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 向かい合う両者。 最初に聡明が思ったのは――――


 (随分な前傾姿勢。 攻撃的であるが……)


 響は上下に細かくステップを刻む。 そうかと思うと左右に体を揺さぶる。


 パンチの初動を隠すための動き。 それとフェイントを織り交ぜて――――


 響は踏み込んできた。


 ジャブでもローでもなく、いきなり間合いに飛び込んでのパンチ。 

 

 様子見はなし。 序盤から全力できた。


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