第121話 1年後
1年後。
サンドバックを叩く音が響いている。 たまに怒声。
ジム。それもキックボクシングのジムだ。
時間帯としては、一般のジム会員がいなくなっている。
プロに混じって、プロ希望者が専門的な練習している時間だ。
だが、そんなプロ意識が高い連中ですら手が止まり、見学者に目を向ける。
それをコーチに指摘され、練習に戻る。
皆の注目の的になっている人物――――花 聡明だった。
彼は、このジムの所属選手ではない。そんな彼が、どうしてここにいるのか?
「噂は本当なんですね」
「噂? 何の話だ」
コーチの隙をついて選手たちの会話が始まる。
「もう引退状態でジムを作るために有能選手を探しているって噂ですよ」
「探してるってお前、それ引き抜きじゃねぇか!」
「えぇまぁ、どうなんですかね? 花選手の団体とうちは違う団体ですからね」
団体。
プロレスで言えば、新日、ノア、全日……
ボクシングで言うならば、WBA、WBC、WBO、IBF……
前者と後者は仕組みが大きく違う。
前者は企業などスポンサー&協賛を得て、興行を行う独立(?)した団体である。
一方の後者は、プロボクシングの王座認定団体である。
キックボクシングの場合は、前者よりである。
かつては全日本キックが業界最大手だったが、20年ほど前に分裂……そして解散。
現在は30近いキックボクシング団体が乱雑していると言わざるを得ないだろう。
さらに国際的なキック団体は20を超える。
前記した通り、キックボクシングという競技は空手の亜種である。
オランダなど、ヨーロッパを中心に広がるキックボクシングと言うのは、現地の外国人空手家が中心に日本のキックを研究して独自に生み出されたもの……のはずだが、国際的団体が20もあると言うのは奇妙な話だ。
そんな団体の垣根というものが存在しているはずのキック。
そのジムに別の団体の王者が見学に来ている。
何も起こらないはずもなく……
「そう言えば、引退ってなんかエキシビションで人を殺したって本当ですかね?」
空気が凍り付く。
熱弁を振るうあまり本人がいることも忘れて禁句を言う者が現れたのだ。
「ば、ばか! お前!本人がいる前で!」
チラリと聡明の方を見る。
大きなサングラスかけている……目の付近に負った怪我を隠すためと言われている。
そのため、表情はわからない。 わからないが…… 剣呑な雰囲気が膨れ上がっていく。
その花 聡明が動いた。
「ここで、一番強い奴は誰だ?」
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