第120話 ユーチュバー最強トーナメント終結

 試合が終わってもおかしくない強打を互いに浴びた。


 飛鳥と聡明。


 だが、両者は動き続ける。 


 互いの間合い、徐々に距離が縮まって行く。


 最初は離れた位置からステップインしてから聡明は大技を狙い、飛鳥は細かく素早い打撃を返していた。

 

 しかし、今はどうだ?


 インファイト。 気持ちが前に前に行くように体も前進している。


 まるで引いた方が負けになるとでも言いたいかのように……


 気がつけば、額と額が当たるような距離。 まるでフルコン空手で起きる相撲空手。


 ボディを狙い合う我慢比べ……いや、どうやら違うようだ。


 何かを狙っている。 どちらが? いや、両者が両者ともに、勝負を決定する何かを……機を狙っている。


 そして、それは――――


 飛鳥の肘打ち。 狙いはやはり聡明の頭部、今も血が流れ落ちている傷口だ。


 (――――そう来ることは、わかっていたぜ!飛鳥あぁぁ!)


 カウンター。 


 よくある事だ。接近戦で勝負を決めようと大振りになる肘打ちをガードされ、カウンターを食らう。


 手ごたえは十分。 もう、これで終わる。終わりのはず……そう信じて放ったカウンター。 聡明は勝利を確信していた……だが……だが? いや、やはり、飛鳥は動く。


 カウンターを食らうのも計算済みだったように、反動をつけた飛鳥の頭部が聡明の顔面に衝突した。


 頭突き。


 人間の頭部は、およそ9キロ。 その重さは拳や足を利用した攻撃と比較しても重すぎる。


 拳を叩きこむような、華麗な蹴りを放つような距離があるからこそ生まれる正確な末端操作とはいかない。 


 しかし、ある強烈な攻撃として大きな威力を生み出す頭突き。


 体ごと叩きこむ。 まるで体当たりのような動きであり、当てる場所が人間の再堅部である頭部。 額を叩きこむ。するとどうなるか?


 鼻を形成する軟骨は潰れる。 その時、まるで小枝が折れたような音が自身の頭部から聞こえてくる。


 その衝撃は鼻から目に移り行く。 衝撃が眼球すら圧迫した結果……


 人間は泣く。


 それも尋常ではない量の涙がボタボタと音が聞こえるようになだれ落ちていく。


 しばらく、眼球が内側から抑えられている感覚は残り、長時間涙は止まらない。


 つまり――――


 (め、目の前がぼやけて見えない! し、視覚が殺された)


 次の瞬間、無防備になった頭部へ、花 聡明の死角から蹴りが叩きこまれた。


 痛みはなく、あるのは衝撃そのもの。


 それから意識が薄れて行く感覚。


 足から重さが消え、浮遊感が体を支配していく。 実際は地面に向かっているのに、体が浮かぶような感覚がおもしろくて――――


「なぁ、楽しかったな。今回も勝てなかったが、すぐに次をやろうぜ!」


 最後にそれだけ声にできた聡明。しかし、飛鳥の返答は――――


「――――すまない。どうやら、俺には次はないみたいだ」 


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


 その日行われたイベント。 ユーチュバー最強トーナメントは、決勝戦で死者を出して終わる事になった。

 

 郡司飛鳥は、決勝戦に立ち――――そして、生きて舞台から降りる事はなかった。


 だが、物語は終わらない。


 ――――それから1年後


 

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