第115話 決着 準決勝 武川盛三対佐々間零

 投げ。 


 体が浮き上がり、地面に叩きつけられる。


 ある意味では一撃必殺。 地面を武器に一撃で人の命を奪える技。


 だが、させない。 零は浮遊感の中、武川の後頭部を狙う。


 サッカーでいうオーバーヘッドキック。 地面に叩きつけられるよりも速く蹴りを放つ。


 そして衝撃。 


 まともに喰らえば失神の投げ。 だが、直前にダメージを受けた武川の力が緩む。


 立てるさ。まだ立てる……


 片膝立ちになる。 


 このタイミング。狙っていた武川が前に出る。 


 打撃なら対処できた。だが、この武川は抱きついて来た。


 (タックル? だが、違う。肩固め? 絞め技?)


 「がっ!」と零は痛みの声を上げる。


 関節技だ。 真っすぐ上に伸ばされた腕。それに武川の両腕が絡まれている。


 痛み。 ミシミシと音が上がる。


 逃げ方? わからない。 未知の関節技。


 そして、可動域を簡単に――――奇妙な音が鳴り響いた。


 武川が技を解く。 これ以上の意味がないからだ。


 だらりと重力に耐えきれず、零の右腕が下がっている。


 折れている。 だが、それでも試合が決する事はない。


 レェフリーはいない。 結果を決めるのは戦う両者だけ。


 零は腕が折れただけで試合を捨てない。 


 武川は折れた右腕を執拗に狙い打撃を放つ。


 左腕で捌く零。 だが、被弾は免れない。


 折れた右腕にも容赦がない打撃。 激痛が走る。


 だが、それでも――――打撃家 佐々間零。


 何発も―――― 何発も―――― 打撃を受けながらも――――


 飛翔


 膝蹴りが武川に叩きこまれる。 それでも武川は動く――――いや、動けない。


 零の足払い。 足が滑り、バランスが崩れる。


 左の拳を叩きこむ。 1撃……2撃……3撃……


 さらに蹴り。 上段回し蹴り、左右を叩きこむ。


 終わらない。 無尽蔵のスタミナ。 まるで永久機関の如く――――


 蹴る蹴る蹴る……殴る殴る殴る…… 肘、膝、拳、足刀、手刀……


 その様子。受け続ける武川は、まるで避難のように見えた。


 抱きつく。タックルではない。ボクシングのクリンチ。


 打撃家、組技格闘技、そんなのは関係ない。


 強引に引き剥がす。 耐える武川の顔面に肘を叩きこむ。


 距離が開いた。


 再び打撃の嵐。 途絶えることのない暴風。


 不意に零の拳が空を切る。 


 (空振り!)


 トランス状態、副交感神経、極限?


 それらにより単調になっていた零の精神が精彩を取り戻す。


 だがそれは、武川が避けたからではない。


 倒れていた。 もう、短い時間で立ち上がる事のない倒れ方だった。


   

  

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