第114話 準決勝 武川盛三対佐々間零

 準決勝が始まった。


 対峙するのは武川盛三と佐々間零。


 試合が開始と同時に佐々間零は体を上下に跳ねさせてタイミングを窺う。


 高速の刻み突きに相手をKOできる威力。


 前戦で見せたアレを出し惜しみする気はないらしい。


 だが、前戦を武川も見ている。両手で顔面を固めているが――――


 次の瞬間、零が飛んだ。


 その拳は武川のガードの上を叩く。 しかも、それだけではない。


 刻み突きの速さ。一撃だけ上部を打ち、直後にタックルに変化する。


 すぐさま、武川は反応。 タックルと潰そうと動く。


 しかし、零の動きは速い。武川の腹部を抱きしめると――――反転。


 背後に回り込むと、武川の両足を刈り取りに行く。


 しかし相手は本職、総合格闘技の猛者。 すぐさま反転して零を迎え撃つ。


 がっつりと両者、正面で抱き合った状態。 まるで相撲。


 この状態で有利なのは、空手家の零ではない。


 相撲で言うならば下手投げ。零の体を振り回すように投げに出る武川。


 零の体は、投げによる遠心力に負け、フワリと浮き上がる。


 だが、次の瞬間に武川は衝撃に襲われた。


 彼の視界には零の足が映り込んでいた。 

 

 投げは潰れ、片膝を地面に付ける武川に対して、零は鮮やかに地面に着地していた。


 (顔面を蹴られた。蹴られたという事実はわかる。だが――――)


 できるものなのか? バランスを崩し、投げられている最中、瞬時に蹴りを放つ事が?


(……それも、無茶苦茶な体勢からだ。 ボディバランス、空中姿勢、柔軟性、体幹? なんて呼んでいいのか? それが超一級品だ。――――しかも、それだけじゃない!)


 零の両手を掴みに行く武川。 


 投げに入る前の崩し――――相手を動かし、バランスを崩させる投げの予備動作。


 (やはり反応が良すぎる。簡単に投げれぬ。だが――――)


 観客には膠着状態にしか見えない。


 だが、そこで行われているのは複雑な動き。高度な読み合い。


 それを制したのは――――


 投げ。


 武川の規格外の握力が零の体を振り回す。

 

 プロレスで相手をロープへ振る行為。 ハンマースローという技。


 それが、この戦いで起きる。


 相手を振り回して、腕を離す。 まさかプロレスのように、そのまま走りだしたりしない。


 放たれた直後に零は1歩、ブレーキをかける。2歩、勢いが残り前のめりになり、3歩目――――


 前に武川が立っていた。


 無防備になった零のアゴに掌底が叩きこまれた。


 そのまま、武川は後方の帯を掴むと体重を浴びせるように零を投げた。


 後頭部から地面へ。 

 

 

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