第106話 郡司飛鳥対卯月知良②

 顎を叩かれ卯月はダウンする。


 しかし、ダメージそのものは大きくはない。


 足払い的な蹴りでバランスを崩して、顎を打たれたので倒れた。


 追撃は来ない。どうやら、飛鳥はこちらが立ち上がってくるのを待っているようだ。


「まるでダンスだな」


 卯月は立ち上がりながら続ける。


「おじさんの時代じゃなかったけど、今は学校の授業でダンスやるんだってな」


「……」と飛鳥は答えない。


 ダンス……つまり踊りだ。


 格闘技ファンなら、空手王 大山倍達の逸話としてダンスが絡んでくるエピソードをいくつか知っているかも知れない。


 弟子たちを集め「バレリーナとだけは喧嘩をしてはいけない」と発言したり、


 「空手が強くなるためには、どのスポーツが有効的か?」と問われれば、


 「社交ダンス」と返すなどなど……


 ……なるほど。


 跳躍する。体を回転させる。あまつさえ、片腕で逆立ちを続ける。


 自身の体をコントロールする術というならダンス……お恐ろべし。


 少なくとも飛鳥の闘法には、そういう踊りの要素が取り込まれているのには違いないだろう。


 再び低い構えの飛鳥。 卯月は構えを変えない。


 やはり、前に出るのは飛鳥から…… 先ほどと同じ低い体勢から、滑るように前に出る。


 蹴り―――今度の軌道は低くない。 頭部を狙った高い打点の蹴り。


 今度はしっかりとガードする卯月。 


 (やはり打撃が軽い)


 そう判断する。 素早く変則的な動きからの打撃。


 強烈な打撃を繰り出すのに必要な動作が、どうしても欠如してしまうのだ。


 しかし、飛鳥は止まらない。


 回し蹴りの勢いを利用して卯月へ背中を見せる。 そのまま、飛鳥は飛び上がった。


 「ば、バク宙だと!」


 飛鳥の両足が頭上から落下してくる。 卯月は回避を選択。


 足だけとは言え、落下してくる人間。 ガードで受けたとして、どれほどの重量が落ちてくるのか? 想像は難しい。


 寝ている時に誰かが頭を踏んだとしたら……そう考えれば、卯月の恐怖が理解できるかもしれない。


 着地した飛鳥は前回り。頭が地面についたタイミングで両手で地面を押しあがる。


 そのタイミングで両足を伸ばし、蹴りを放ったのだ。


 「――――くっ! この!」と卯月は焦りが声に出る。


 さらに飛鳥は動きを変える。 背中を地面につけて回転。


 卯月の足を掴むとそのまま絡みつくように関節技を狙った。


 こうして、高速の動きを維持していた攻防が止まった。


 ギリギリと音がするように力が込められていく。


 (倒れてはならない。下からの足関なら決まらない。だが、倒れたら……)


 耐える卯月。しかし、バランスを崩して…… 

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