第107話 郡司飛鳥対卯月知良③
バランスを崩して倒れる卯月。 その足に飛鳥は足を絡めて関節技を狙う。
そんな飛鳥に卯月は絶賛していた。
すごい……すごいね、飛鳥くん。 あのダンスみたいな打撃。
ブレイクダンスが元になっているのかな? あれをやり続けていたら、コッチは対処できなかった……とまでは言わないけど、対処まで時間がかかっただろうよ。
それまで数発の打撃は受けてたはず。 クリーンヒットってやつをね。
そのアドバンテージを捨てて寝技に来るんだ。 凄いね、君の倍は生きてる俺が尊敬するくらいだよ。 でもね――――
ほら、驚いた。 サドルロックって名前の関節技だよ。
おじさんは新しい技と知らないと思ったかい? 足関節ならおじさんの領域だよ。
逃げる。 そっちの方向へ……でも、それは罠さ。
へぇ……そうやって逃げちゃうんだ。 考えて事ない逃げだ。
でも、おじさんは使えないなぁ。リスクが高すぎる。
まだだよ。まだ有利なのはこっち側。 ほら、打撃が入る。
立たせない、逃がさない。 おじさんが打撃を止めるとしたら……拳が痛めて使えなくなるくらい殴った後だよ。
あぁ楽しいな。 本当だったら許されないんだぜ? 人を殴る事をしたら……
でも俺たちには許される。 楽しい。殴る事も、殴られる事も楽しい。
変だろ? 痛めつけられるのが楽しいなんて?
でも仕方ないじゃないか、これはこういうゲームなんだから……
30年になっちまう。 この遊びを始めてから30年だ。
俺はプロレスラーに憧れていた。 いや、俺の世代はみんなそうだ。
みんなプロレスを見て育った。
知ってるか? 太陽にほえろって超人気ドラマ。 ん? 知らないか?
じゃ、3年B組金八先生は? 流石に知ってるだろ?
そんなドラマよりも同時刻にやっていたプロレスのテレビ視聴率が高かった時代があるんだぜ?
俺もそれで高校に入ってレスリングを始めたんだ。 ほら、レスリングで活躍した奴がプロになってプロレスラーになるって思ってたんだ。
野球選手が高校で活躍してプロ野球選手になるように……
サッカー選手が……いや、俺が高校の時にJリーグとかプロサッカー選手が生まれたんだ。 例えに出すのはおかしいか?
そうやって俺はプロレスラーになった。 腕立て1000回とかスクワット1000回とか入団試験を無事合格したのさ。
それなのに、時代は妙な事になってきた。
古武道とか、柔術とか怪しげな連中が表舞台に出てきたんだ。
怪しげなのに強い。 近代格闘技のトップ選手が簡単に負けちまうんだ。
そうグレイシー柔術って武道家集団に格闘界は蹂躙されちまった。
仕方がない。 強くなるために格闘技にマウントポジションとか、そいつ等の技を武道とか武術を取り込んだのさ。
……ん? あれ? なんだ? 俺はいつから、そんな事を考えてる?
俺は戦っているはずじゃないのか? 誰と?
誰だったかな? 確か飛鳥……郡司飛鳥とかいう名前の奴だ。
あぁ、混乱してる。 俺はまだ戦っている最中だ。
どこかで記憶が飛ぶような強烈が打撃を受けたみたいだ。
けど、戦える。いやいや、実際に意識がなくて戦えるわけがない。
本当は、しっかりと意識はあるけど、脳へのダメージで徐々に前後の記憶が消滅するから、まるで無意識に戦っていたように錯覚しちまうんだろ?
――――いや、よくない。 意識が散漫になっている。
何を いや おれは―――― 戦 る
だ ら、 もう し戦わせてくれ。
まだやれるんだ。 もう少し戦わせてくれ。
最後に卯月の目が捉えたのは飛鳥の拳だった。
郡司飛鳥対卯月知良
勝者 郡司飛鳥
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