第99話 内藤隆対武川盛三 ③
「馬鹿な……いや、馬鹿めと言うべきか」
武川は呟いた。
合気研究家。その前は総合格闘技のプロだった自分に空手家の内藤隆が寝技勝負を挑んでくる。
上から覆いかぶさってる内藤に勝ち目はない。……そのはずだ。
では、なぜ内藤は寝技の勝負に出たのか?
(わかっている。わかっているぞ内藤)
武川は内藤の腕を掴む。 内藤は、上から覆いかぶさり観客に見えない位置で攻撃を仕掛けようとしていた。
それがどのような物だったのか? 想像でしかないが……普通の試合なら悪質な反則を取られるものなのだろう。
裏技。 そう呼ばれる寝技でのえげつない攻撃。それを狙ったに違いない。
「舐めるなよ。俺たちゃ、試合じゃやらないそういうテクニックも身に着けてるんだぞ」
内藤に聞こえるように耳元で言う。
あてが外れた内藤がどう出るか? 内藤は寝技を継続した。
サイドポジション。柔道でいう横四方固めだ。
相手を逃がさないように押さえつけ、膝や肘で攻撃もできる。
そして隙があれば腕関節、アームロックが狙えるポジション。
この時、武川にも動揺が生まれる。
(あれ?うまいじゃないか……この俺にポジションをキープしながら、打撃を仕掛けてくるなんて)
武川は内藤の足を掴み、その体をひっくり返すようにスリープを狙うも、内藤は状況を維持する。
(このキープ力。ただのフィジカルでどうにかなるものじゃない。そうか……寝技の鍛錬を積んだのか。ここ最近まで急激に!)
ここで初めて武川に焦りが生まれる。 だが、寝技のレベル差は武川の方が遥かに高い。
本気になった武川の技術ならば――――
「がっ!」と悲鳴のような声。 漏らしたのは武川だった。
内藤が狙ったのは目だった。 突いたり、抉ったりしたわけではない。
マブタの上を擦るように圧迫したのだ。
反則ではない? いや、審判がいればキッチリ反則を取られる行為だ。
しかし、この戦いに審判と言える審判は存在していない。
寝技の攻防が進むにつれ、武川の警戒心……内藤の裏技への警戒が薄れてきたのだ。
だから、本来なら決まらないであろう技が生きてくる。
内藤は次は何をしてくる? そういう疑心暗鬼になれば、真っ当な技も生きてくる。
真っ当な技が生きてくれば、より裏技も生きてくる。
(これはそういう戦いだぜ? 寝技の戦いじゃない。メンタルの読み合いと削り合い。そういう戦いにステージを変えさせてもらった)
ニヤリと再び内藤が笑った。
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