第100話 内藤隆対武川盛三 ④

 打撃家が打撃で押され、元総合格闘家が寝技で押される。


 想像がつかない展開が続く。


 武川は、無理やり立ちあがり内藤から距離を取る。


 本職である寝技から武川が逃げたと取るか?


 打撃で有利な立ち技に戻したと取るか?


 ダメージはどちらが多い? おそらく、武川のダメージの方が内藤のそれを上回って。


 呼吸も荒い。 スタミナのロスも激しい。


 そこで武川は――――構えを解いた。


 両手をダラリと下げる。 いや、構えを解いたのではなく、これも構えなのだ。


 柔道で言う自然体。 最も投げを受けない構え。


 だが、これは打撃ありの勝負。  その構えの有効性は、どれほどか?


 だから、前に出るのは当然、内藤だ。


 がら空きの顔面。 当然、狙う。


 おそらく武川は、体捌きで避けて投げる計画なのだろう。


 だが、スタミナで勝る内藤相手に逃げに徹しても……


 「フン!」と正拳が武川の顔面に向け飛んで来る。


 避けれないタイミング。避けれないスピードで打ち抜く。


 (入った!)


 内藤は、この瞬間に勝ちを意識した。 だが、拳に伝わる違和感に対して反応が遅れる。


 武川は内藤のパンチを受けたのだ。 もちろん、そのまま受けたわけではない。


 インパクトの瞬間に首を捻り衝撃を逃がした。


 ボクシングの高等技術ではあるが、来るとわかっているパンチに対しては簡単に使える技術である。


 武川は内藤の腕を掴む。 


 内藤は空手家だ。そのパンチはボクシングなどのグローブ競技をは違い、打った腕を素早く引くのではない。逆に相手へ強く押し付けるようなパンチとなる。


 だから、掴める。


 そのまま武川は後方へ倒れていく。 そして重心は下へ。


 さらに跳ね上がる足。 蹴りに意識を集中する内藤であったが……それは蹴りではなかった。


 武川は相手を引き倒すような体勢から――――



 巴投げ


 クルリと綺麗に内藤の体が一回転する。 柔道ならば、間違いなく一本だ。


 だが、武川は止まらない。 利用するのは投げの反動、勢い。


 さらに回転の加え、倒れた内藤の上に座り込む。


 マウントポジション――――いや、違う。武川はまだ、止まらない。


 そのまま体に捻りを加え、腕を掴んだまま――――後方へ倒れる。すると――――


 腕十字固め


 淀みのない一連の動き。 腕十字は完全に極まっている。


 だが、内藤はタップしない。 ただ、暴れる。


 首をロックする武川の足を外そうと、 真っすぐに伸ばされ、ミチッミチッと靭帯に負荷がかかっている音を緩めようと、暴れ狂う。


 だが、断言できる。


 ここまで完全に極まった腕十字は、外れることがない。


 そして――――


 異音


 大きな異音が会場に鳴り響き、ようやく内藤は暴れるの止めた。


 まるで何事もなかったように武川は立ち上がり、腕を抑える内藤に一礼をすると、舞台から降りて行った。


 勝者 武川盛三 


  

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