第92話 吉田・ソムチャイ・AK47対花 聡明④
ムエタイのミドルキック。
僅かにガリ股ぎみでモーションから発動する事で相手の腹部及び胸部に垂直に蹴りが入る。
軸足を回転させ、腰を大きく捻る。
ガードするならばその腕ごと蹴り折ればいい。
そういう発想の蹴りである。
卓越した威力……だが、それだけではない。
蹴りのスピード。 放つ時のスピードだけではなく、戻りも早い。
つまり、
1撃目から素早く2撃目を出してくる。
だから、ムエタイの試合ではパンチの手数よりもキックの数の方が多くなるという。
そんなソムチャイのミドルが放たれる。
合計3発のミドル。 そしてローに繋げて――――
そんなソムチャイの顔面に拳が叩きこまれる。
ローをカットした聡明。その打ち終わりを狙い左右のフックを叩きこんだのだ。
嫌がるソムチャイ。 近い間合い。 首相撲に移行――――させない。
ショートのアッパーをねじ込む。
浮き上がるソムチャイの顎。そこに再び左右のフックだけではない。
パンチのコンビネーションに肘を加える。
打ち抜いた確かな手ごたえ。 さらに放ったフックは宙を切る。
空振り――――だがソレはソムチャイの体が沈んでいくため――――否。
ここで信じられない事が起きた。
ダウンと見間違う動きでしゃがみ込んだソムチャイが前で出る。
聡明の両足に腕を巻きつけて――――タックル?
激しい打撃戦で誰もが失念していた事がある。
はっきりと事前情報として伝わっていたはずの……ソムチャイは総合格闘技の練習を積んでいると事実。
倒れた聡明に覆いかぶさっていくソムチャイ。 マウントまでは奪えない。
聡明が下から両足でソムチャイを拘束したからだ。
ガードポジション。
聡明は困惑していた。 自分が抑え込んでいる物――――まるで純粋なパワーそのものだ。
膨大なエネルギーが暴れ狂おうとしているのを無理やり抑え込んでいる感覚。
恐怖心。 確かに聡明の心中に浮かび上がっている物は確かな恐怖心のはずだ。
だが、それを解き放ってみたい。 そういう好奇心に湧き上がってくる。
ふつふつと自分の内部から湧き上がってくるマグマのような熱い感情。
抑えきれない。 そう思うのは、上に乗っているソムチャイの腕力か?
――――それとも?
そして、聡明は――――
その純度の高い力を解放させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます