第93話 吉田・ソムチャイ・AK47対花 聡明 ⑤

 ムエタイ戦士 ソムチャイのマウントポジション。


 それは暴風だ。 ソムチャイという名前の台風。


 暴風で巻き上げられた石や岩が落下してくる。


 あるいは車、建造物の屋根さえ巻き上げる。


 そういうエネルギーを持った打撃が降り注いてでくる。


 両手を固めた聡明の防御。それをこじ開けようと拳だけではなく肘が叩きこまれ――――ついには頭突き。


 相手に頭を叩きつけるという行為。幼い頃に、こう思ったことはないか?


 頭をぶつけにいく方がいたのでは?


 しかし、人間の頭部。その重さは、約9キロ。


 それも人間の骨でも特別に強度が高い。 


 嘘か?本当か? 後頭部になれば、石の堅さと同等だと言う。


 そんな物を何度もたたき込んでくる。 


 だが、聡明もやられるままでいられない。


 ブリッヂ


 足と首。そこから生み出されるパワーがソムチャイが浮き上がる。


 だが落ちないソムチャイ。 そのまま攻撃を続ける。


 さらに2度目のブリッヂ。 今度は捻りを加えると同時にソムチャイの腰を強く押す。


 だが、落ちないソムチャイ。


 キープ力。 


 寝技でポジションを維持するためのバランス、強く手足を絡める力。


 それらをキープ力と言う。それがソムチャイが卓越している。


 TKシザーズ


 クワガタの角のように聡明の両足が背後からソムチャイの胴体を挟み込む。


 だが、落ち着いて振り払われ、ソムチャイの攻撃が再開させる。


 これは天性の才能によるものか?


 確かにソムチャイが総合格闘技の練習をかねてより行っていたのは周知の事実だ。


 しかし、この水準に達していたとは、誰が想像していただろうか?


 反射神経、ボディコントロール、バランス……   


 総合格闘家として才能。……逸脱している。


 このまま聡明は沈む。 そう観客たちが想像を始めた頃だった。


 しかし、異変が起きる。


 スピード。 聡明の下からの動きが素早くなっている?


 ブリッヂ……捻り、左右素早く……


 ソムチャイがいくら総合格闘家の才能があろうとも、本職ではない。


 専門に絞り練習すれば対処できたかもしれない。 だが、そこまでの熟練度ではない。


 動きと動きの繋ぎ。


 ブリッヂなら、捻りなら、TKシザーズだけなら……1つ1つの技ならば対処できる。


 だが、それらの複合。連続技なら?


 複雑さが増さば増すほど、対処は難しくなっていく。


 そして、ソムチャイの反応が遅れ……マウントポジションが反転する。


 ガードポジションへ。


 ソムチャイが下。 聡明が上。


 ソムチャイは、下から両足で聡明の胴体を挟み、動きを制限する。


 だが、聡明の肘が振り下ろされた。

 

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