第91話 吉田・ソムチャイ・AK47対花 聡明③

 肘打ちを受けた。 かなり強烈なやつだ。


 打撃の間合いを瞬時に縮め、飛び込んできたと思った時にはやられていた。


 記憶が曖昧になっている。 現在の記憶よりも前が思い出せない。


 昔の漫画なら、


 意識がないまま戦っていた! 信じられない!?


 ってなってる。


 「へっ……」と笑い声が漏れた。


 いいなぁ。本当に意識がないまま戦えるなら、寝てる最中でも立ち上がって戦えるのか?


 それなら寝ながら、スパーリングができるはずだ。


 寝ながらランニングや寝ながら補助トレ……何を考えている、俺は?


 集中しなければならない。 


 聡明はソムチャイが立ち上がるの待ちながら、そんな事を考えていた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 首相撲から肘打ち。


 聡明は、あの瞬間に膝から崩れ落ちるようなダメージを負ったはずだった。


 ソムチャイもそれがわかっていた。


 一気に決着をつけようと猛撃に出る。

 

 もしもレェフリーがいたら、とっくに試合を止められていただろう。


 パンチというよりも上から下へ―――拳という鈍器を叩きつけるような行為。


 だが、その攻撃は洗礼さを捨てた単調なリズムになる。


 単調なリズム――――カウンターを狙いやすい。


 左フック


 無防備ともいえるソムチャイの頭部を聡明の拳が捕えた。


 全身の力が消失したかのように地面に倒れたソムチャイ。彼は、そのまま地面を這うような動作を繰り返している。


 おそらく立とうしているのだ。 


 ――――しかし、体が意思に従わない。 そんな状態なのだ。


 だが、ダメージが深いのは聡明も同じだ。 


 金網に体重を預け、動きを止めている。


 互いに動こうとしているが、動けない状態。


 どちらの回復が早いのか? ――――いや、そもそも試合中に回復するようなダメージなのか?


 会場に異質な空気が流れる。 観客たちが無言だったのは、この状態が30秒くらい続いた頃か?


 「もう止めろ」と声もある。 「まだ、止めるな」と声もある。


 通常30秒も選手が動かなかったら、試合が止められる。


 しかし、ここまでなのか? ここまで残酷なルールなのか?


 さらに1分ほど経過した時、ソムチャイが立ち上がった。


 僅かにふらつきを見せている。 目の光は―――消えて見える。


 しかし、見えるだけで、本当に意識がないのかはわからない。


 そして、それは聡明も同じだ。 ゆっくりと持たれかけていた金網から背中を外した。


 互いに向かい合って構える。


 奇妙な緊張感。 そのままの状態で動かない。


 まだ、回復に努めているのか? それとも、動ける状態ではないのか?


 だが、動きが生じる。 先に動いたのは――――


 ソムチャイだ。


 

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