第90話 吉田・ソムチャイ・AK47対花 聡明②

 その戦いは驚くほど静かに始まった。


 しかし、互いの間合いは縮まっていくと


 ソムチャイのハイキック。


 いや、正確にはハイキックとミドルキックの中間の軌道。


 ソムチャイの足は聡明の顔面ではなく肩口に当たる。


 いきなりのハイ。 ソムチャイは、こうやって蹴りの間合い計る。


 そして、さらに踏み出してのコンビネーション。


 左ジャブ、右ストレート、左ロー。


 注目すべきは右ストレート。 これも正確にはストレートとフックの中間の軌道。


 これが強烈だ。 奇妙な軌道とタイミングのハイキックとストレート。


 初見で圧倒される。 だが、聡明は動じない。


 ソムチャイの打ち終わりに合わせて拳を叩きこんだ。


 驚いたような表情を見せるも一瞬、ソムチャイも拳を返す。


 拳の打ち合い。


 そう思ったが、あっさりとソムチャイが背後に下がり―――


 前蹴り


 しかも、ただの前蹴りではない。打撃の打点が異常に高い。


 顔面を貫くようにソムチャイの踵が聡明を襲う。


 だが、ブロック。 強烈な前蹴りを両手でしっかりと抑える。


 両者が止まり息を整える。 その緊張感は周囲の観客たちにも伝わり深いため息に変わった。


 そして、すぐさま次の展開になる。


 ミドルの打ち合い。


 打撃音が鳴り響く。 ムエタイ本場の強烈なミドルキックに聡明も負けていない。


 2発、3発、4発……と打ち合って互いに引かない。


 そう思った直後、ソムチャイのミドルにタイミングを合わせて聡明は横回転を開始。


 バックハンドブロー


 ここしかないというタイミングでソムチャイの顔を捉えた。


 リングに手をつくソムチャイだったが、すぐに立ち上がる。


 この戦いにダウンはない。 しかし、もしも……これがキックやムエタイのルールだったら、あきらかにダウンだった。


 会場が歓声で揺れる。 全てが聡明への声援。


 しかし、彼は知っている。 ムエタイ……タイ国技であり、立ち技最強を言われる格闘技。


 ここからだ。 ここから、もう一段階強くなる。


 スロースターター


 それがソムチャイの選手としての評価である。



 


 

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