第86話  業野秋貞対卯月知良④

 日本の総合格闘技には脈々と引き継がれる技術がある。


 PRIDE、パンクラス、修斗、キングダム、バトラーズ、藤原組……


 所謂、U系の血脈。 それよりも更に遡っていく。


 プロレスの神様と言われたカール・ゴッチが日本のプロレスラーたちに指導したスタイル。


 キャッチ・アズ・キャッチ・キャン


 特徴は攻撃的に関節技を狙うスタイルだ。


 それは卯月知良にも受け継がれている。


 ポジショニングの奪い合いですら、唐突に攻めていく。


 やりづらい……業野は、そう感じた。


 気を抜けば、僅かにも隙をみせれば関節技をどんどん仕掛けてくる。


 50歳近くのスタミナではない。 むしろ、自分よりも体力があるのではないか?


 そんな事を考えていると足を掴まれて関節を狙われる。


 ヒザ十字、ヒールホールド、アキレス腱固め、アンクルロック……


 しかし、それらのディフェンス方法は研究されている。 加えて、極め切れなければ、上を取られて殴られてしまう。


 だが、それでも対処を誤れば一瞬で極まられるスリリングな技。それが足関節である。


 業野とて、グラ研のメンバーとして足関節には自信がある。


 しかし、相手の卯月も足関節の名手と言われている。


 だから、業野は付き合わない。 体重をかけ、上から押しつけて、パンチを振り落とす。


 それでも、下から関節技を狙い動いてくる卯月。 


 (―――聞いてはいたが、打たれ強い!)


 ここまで殴れば、普通は嫌がる。 しかし、殴られても構わないと言わんばかりに動きを止めず、仕掛け続けてくる。


 (まるでゾンビと寝技対決をさせられているみたいだ)


 業野は立ち上がる。 卯月もしばらくは寝た状態からゆっくり立ち上がってくる。


 あんなにも動き回っていたはずなのに呼吸が乱れた様子はない。


 (やはり、自分の方が明らかに優れている打撃を集中的にやる)


 そう考えた次の瞬間に卯月は動く。


 タックル


 事前に予想していた業野は反応して、前のめりになる。


 だが、飛んできたのはタックルではなかった。 大振りのフックが業野に当たる。


 2発目も当たり……3発目はガードした。


(くっ! 変則的な打撃……警戒する意識が薄れた時に狙ってくるのか)


距離を取ろうと前蹴りを放つも空振り……それどころか、打ち終わりを狙った卯月のフックが飛んで来る。


なぜだ? 


業野は混乱してくる。 


なぜ、打撃でも翻弄されている?


だが、セコンドから声が飛んで来る。


「業野! 騙されんな! 卯月の打撃はハメドスタイルだ!」


    


 

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