紅蓮の日常

第85話 業野秋貞対卯月知良③

　オモプラッタ。

　刑事ドラマや映画でよくあるだろ？　犯人の腕を後ろに回して、絞り上げると「痛い痛い」って奴。

　あれを足と腕で固めてやるんだよ。

　相手の体の後ろで腕がくの字に曲げてやりゃ、そりゃ痛いだろ？

　痛いって言ってもギブアップを奪えるまでは難しい。

　だから、固め技として軽く細かく、殴るんだよ。

　業野は、最初にオモプラッタを習った時に、そう教わった。

　グラ研総帥　近藤　菊児

　寝技世界最強と言われる格闘家だ。

　中東、石油で稼いでいる国の王子は、自分の趣味でやってる競技の世界大会をポケットマネーで行う。

　例えば、競馬。例えば、ゴルフ。　……それに柔術。

　近藤はそれに優勝した。

　優勝者には、日本円で１億近くの賞金。

　さらに世界大会後に優勝者たちは王子に個人レッスンを行う。

　個人レッスン料も相当な額になるらしい。

　優勝した近藤菊児が作ったジムがグラ研だ。

　豊富な資金源。　世界王者である近藤の直接指導で、メキメキと格闘技界に頭角を現してきた。

　世界屈指の寝技スペシャリスト集団。　

　だが、近年の総合格闘家のアスリート化。　打撃も寝技もポジショニングも、全てが高いレベルで要求される時代への突入。

　寝技のスペシャリストだけでは勝てない。

　ならばどうする？　寝技とポジショニングはクリアしている。

　ならば、要求されるのは高いレベルの打撃を所属選手たちで共有する事。

　それで選ばれたのは、若く、スタミナがあり、強いフィジカルと高い反射神経を業野が選抜された。

　グラ研究のバックアップもあり、日本の二大キック団体と言われる１つでベルトを手にすることができた。

　だから……業野は確信している。このメンバーとなら、どこまでもいけると。

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　業野は非情と言えるほど、卯月を殴る。

　卯月は前転してオモプラッタからエスケープを試みる。

　だが、当然逃がさない。　素早く打撃を中断して、片腕で卯月の腰を押さえて前転を阻止する。

　また打撃の展開へ……しかし、その隙を狙われた。

　卯月は業野の体を跨ぐと、素早くサイドポジションに移行する。

　サイドポジション、柔道で言えば横四方固めだ。　寝ている相手の横側から乗り、腕で首と足をロックするポジショニング。

　逃げようとする相手の動きに合わせて、上から体重を乗せると相手が脱出する事は困になる。

　総合格闘技で肘や膝で攻撃を行いながら、さらにマウントなど有利なポジションを狙える。

　（来る！　卯月選手は盛り上がらない膠着を嫌うプロ意識の高い選手。素早いポジショニングで翻弄したくる）

　業野の予測通り、卯月はポジショニングの奪い合いを狙い始めた。