第53話 ヘビー級ボクサー 大海原 祥③

 祥の体形は、力士でいうあんこ型。リーチは決して長くない。


 しかし、それはヘビー級に限っての話。


 飛鳥と比べれば、半歩だけ懐が深い。


 右のジャブだけで後方へ追い込まれていく。


 そして、左ストレート。 


 決して速くはなく、十分にガードは間に合う。 けれども、その威力と貫通力。


 気を抜けば上半身が反り返るだろう。 腰から折り曲げられるような感覚。


 それでも強引に前進して、コンビネーションを放つ飛鳥。 


 手ごたえは薄い。 どれほどのダメージになっているのか判断ができない。


 そうしている内にクリンチ。 祥は飛鳥を抱きしめるようにして動きを止め――――


 投げ。


 リングに叩きつけられるような衝撃。


 ボクサーとして洗礼された打撃。 近づけば、力士の豪快な投げ。


 気を抜く瞬間はない……いや、強いて言えば今だ。


 祥は、寝技に来ない。


 立ったまま、後ろに距離を取って飛鳥は立ち上がるのを待っている。


 おそらく寝技まではできないのだろう。


 それがせめてもの救い……と言うよりも、寝技はあればもう負けている……


 飛鳥は「ふぅ……」とため息を1つ。 すぐさま意識を切り替えた。


 ここまで良いところなし。 完敗状態と言ってもいい。


 だが、やるべき事。勝つための必須要素が見えてきた。


 対峙する両者。


 祥から右ジャブが不規則な軌道で飛んでくる。


 それを掻い潜り……ローキック。さらに離れ際に内ももにインロー。


 (やはり、蹴りには対処できないか)


 前に出てくる祥へ前蹴りで動きを止める。


 明らかにイラついた様子。 さらに飛鳥は蹴りを放つ。


 勝つための必須要素――――蹴りと寝技。


 蹴りと寝技を徹底してやる。


 祥の打撃に雑味が増してきた。 やや大振りの左ストレート。


 それを低い体勢で躱してタックルへ。


 だが、祥はニヤリと笑う。元力士へのタックルは無謀。


 組みついた瞬間に投げ飛ばす。 そんなシンプルな作戦。


 しかし、飛鳥の動きが変化する。回り込むような動きで祥の背後へつく。


 相撲では、この状態……相手に背後を取られた状態では逆転が限りなく難しいと言われる。


 祥は背後の飛鳥を押しつぶそうと体重をかけていく。


 だが、背後へ体重をかけたタイミング。 飛鳥は祥の足に自身の両足を絡めて、倒れた。 さらに祥のズボン、腰付近を引っ張る。


ベロンボロ


バックを取る事に徹底した柔術の技、ポジショニングだ。


飛鳥は、チョークを狙って祥の首へ腕を巻き付けていく。


 


  

 


 

 


 


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