第31話 キックボクサー 花 聡明 ④

 首相撲


 相手を引き付けて、強烈な膝蹴りを叩き込む。


 そういうものだと飛鳥は誤解していた。


 両腕で押さえられて無理やり、下げられた頭部をクルリと捻られ――――


 投げ。


 仰向けに倒れた飛鳥に、聡明は拳を見せ付けるような動作。


 これがキックルールでなければ、倒れた飛鳥の顔面にパンチの追撃をしていた。そういう意味の動作だ。


 だが、飛鳥は挑発など歯牙にかけない。 聡明の攻撃を冷静に分析していた。


 独特のステップを利用した打撃。


 強烈なミドルキック。


 接近戦の肘。


 首相撲。


 立ち上がった飛鳥に対して仕掛けてくる攻撃は――――


 左ミドルキック


 ガードした腕を叩き折ると言われるムエタイ式のミドルキック。


 事実、ガードした飛鳥の腕に伝わる衝撃は尋常。 だから、何発も受けれない。


 だが、飛鳥は聡明の無防備になった軸足、右足の内腿にローを叩き込む。


 バランスを崩した聡明に対して――――


 「勝機!」


 右足を上げて、蹴りのフェイント。

 

 反応した聡明に対して、上げた右足を勢い良く後ろへ引く。


 下半身の動きで大きな反動を生み出し、左ストレート。


 ムエタイにもキックにもない打撃。総合格闘技で使われる打撃――――


 スーパーマンパンチ


 まともに受けた聡明は、クリンチ……いや、首相撲へ移行する。


 だが――――


 「首相撲は、体重移動と捻りを加えた投げだな」 


 こともあろうに飛鳥が首相撲で聡明を投げた。


 「しゃ!」と歓喜の声を上げる飛鳥。 お返しとばかりに倒れた聡明に拳を見せ付ける。


自身の得意分野でやり返された聡明は「……」と無言。


無言で鬼の形相を浮かべていた。


そこでブーとブザー音が鳴り響いた。


1R終了の合図。ようやく、まだ3分しか経過していない事に気づかせる。


そのまま、1分の休憩。 しかし、聡明は休憩の時間、鬼の形相を崩さなかった。


コーナーにもたれかかったまま、飛鳥をにらみ続ける。


対する飛鳥は飄々と殺意の入り混じった視線を浴び続ける。


そして再び、ブザーがなる。 休憩は終わり、2R開始の合図。


鬼が動いた。


そして、それは速い。 リングという狭い舞台での全力ダッシュ。


さらにミドル級の体が空を舞う。


飛び膝蹴り……いわゆる真空飛び膝蹴りである。


2R開始間際でコーナーから動き出そうとしていた飛鳥には、この奇襲に十分な対処はできなかった。 


かろうじてガードが間に合ったが、再びコーナーまで押し戻され、聡明の体重とコーナーに挟まれ、サンドイッチ状態になる。


フワリと聡明が着地しても、飛鳥はコーナーに押しやられ脱出できない状態になっている。


あまりの展開に、いまだに状況判断が追いついていない飛鳥。


そこに聡明の乱打が襲い掛かり、コーナーに釘付けとなる。


鬼神 花聡明  復讐鬼キックボクサーとして本領発揮である。


  



 

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