第30話 キックボクサー 花 聡明 ③

 花 聡明


 22歳の若さ。


 元不良なのかもしれない。


 言動に荒々しさを感じる。しかし、その反面に精密な打撃を繰り出してくる。


 髪を立て、鉢巻。赤いトランクス。 


 まるで、90年代の格闘ゲームの有名キャラクターを連想させる。


 もしかしたら好きなのかもしれない。 餓狼伝説のジョー東を……

 

 身長183センチ 体重70キロ……ミドル級の肉体。


 体重に対して身長が高く、打撃のリーチも長い。


 なにより郡司飛鳥よりもデカイ。


 明記されていなかったが飛鳥のはウェルター級。


 競技によって違いはあるが、ミドル級よりも1つ下の階級で体重は65キロ前後。


 両者には5キロの体重差がある。 


 5キロ。 打撃系格闘技では大きな差だ。


 単純な



ジャブですら、受ける飛鳥には後ろへ押し倒されるような圧力を感じる。


 だが、そんなことよりも飛鳥が「面白い」と注目したのはキックボクサーが使う足の動きだった。  


 最初に見せた、片足を上げて前進するステップもそうだが……


 聡明は左構えサウスポーから右構えオーソドックスへスイッチする。


 そのまま左足から放たれたのは――――


 三日月蹴り


 空手の盧山初雄氏 中国拳法の澤井健一氏の両名によって開発された日中合作の魔技とも言われる三日月蹴りであるが――――


 この日は不発。


 飛鳥は易々とガードする。


 そのまま、聡明の左足は元の位置へ……戻っていない。


 僅かに前に、元の位置より一歩分。 これにより、次の攻撃で右足を前に踏み込んでのジャブなり、ストレートなり……


 一歩分の伸び、拳3つ分の伸びが生じる。


 対峙している飛鳥にしてみたらダルシムやルフィを相手にしているのようなものだ。


 それほどまでに距離感の狂いが酷い。


 足捌き? フットワーク? 


 とにかく、キックボクシング独特の足のポジショニングに惑わされる。


 焦って後ろへ逃げると――――


 ミドルキック


 ガードしたはずの腕に激しい痛みが走る。


 思わず「グッ」と顔を顰める飛鳥に対して、余裕なのか? 聡明はニヤリと笑い


 「サムゴーって知ってるか?」


「?」と飛鳥は首と横に振った。


「あっそ……寝技のヒクソン、立ち技のサムゴーって言われたタイ人なんだが、別の二つ名は……」


 言葉を途切れさせ、再びミドルを繰り出した。


「骨折りサムゴー。 対戦した選手の腕をミドルで破壊するためにつけられた名前だ」


 ムエタイ式のミドルキック。


 踏み込む瞬間にガリ股になることで、蹴りの軌道が相手の胴体やガードした腕に垂直に入る。


 威力の分散しない強烈な蹴り。


 これにより、タイでは――――


「ミドルがガードさせるなら、ガードした腕ごと叩き折れ」


 と言われいる。


 2撃、3撃とミドルが叩き込まれ、飛鳥の腕が変色していく。


 4撃目。 飛鳥がミドルに合わせて、強引に前に出る。


 総合と立ち技のミドルキックの差。 最大の差は軸足の動き。


 タックルのある総合格闘技では、ミドルの軸足はベタ足で必要以上に回転させない。


 逆に言ってしまえば、キックなどのミドルは高威力を引き換えに安定感がない。


 そういった思惑での飛鳥の行動であったが


「キックボクサーに近間を挑むか。馬鹿め」


 鮮血が舞った。

 

 飛鳥の額へ聡明の肘が叩きこめれ流血。


 さらに聡明の両腕が飛鳥の首に巻きつけられた。


 首相撲である。


  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る