第7話 空手家 内藤隆の場合⑦
稀代の天才推理小説家 エラリー・クイーン
彼(クイーンは男性2人組の作家であるが、あえて彼と呼ぼう)、はダイイング・メッセージについて、
なぜ、死の間際の人間が天才である探偵が頭を悩ませせるような暗号が作れるのか?
と問いに、こう答えた。
『比類のない神々しいような瞬間、人間の頭の飛躍には限界がなくなるのです』
死の間際に凡人ですら天才を遥かに凌駕するのだろう。
ならば、今――――
死を間際にした飛鳥にも比類なき神々しい瞬間が訪れている。
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当たれば……死。
僅かに、かすっただけでも危険。 最高速度の新幹線に横から指先を触れるようなもの……
しかし、間合いは4メートル強。 いくら内藤が速くても、消えて見えるほどの速度だろうか?
いや、そんなはずはない。
おそらく、消えて見えたのは心理的な要因。
いや、まてよ。技を繰り出す直前に内藤の体が大きく見えた。
あれは……錯覚ではなく、本当に大きくなっていた?
馬鹿な、人間のサイズが変わるものか。
……いや、あれはフェイントだったのではないか?
視線を上に向けさすため、僅かに体を弾ませた?
では、内藤は下から来ているのではないか
例えば、レスリングの低空タックル。 一度、深くしゃがみ込んで前方へ飛びついてきているような動き。
実際、タックルのモーションで強烈な打撃はできない。
おそらくは、中腰の状態から地面を滑るような歩行術。
できるのか?と疑うな。 できるかどうかの問題ではなく、やっている。
この推測は間違いかもしれない。 しかし、大きな間違いはない。
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飛鳥のフル稼働した脳は、そう結論付けるのに1秒に満たない時間を有した。
そして――――
「来る!」と飛鳥の言葉通りに内藤の体は、軽く跳ねた。
来ると思った次の瞬間には衝撃。 さらに次に浮遊感を覚える。
遅れて痛み。 顔面を……打ち抜かれた痛み……だけど生きている。
代わりに……飛鳥の目前にはダウンした内藤の姿があった。
一瞬の攻防。
防御も回避も許されない状態にで飛鳥が選択したのは攻撃だった。
相打ち狙いの攻撃。
内藤の動きに合わせるのは簡単だ。 なぜなら、攻撃の直前に上へのフェイントを入れるとわかっているのだからだ。
内藤の体が跳ねたタイミング。飛鳥が選択したのは前蹴り。
低空で向かってくる内藤を予想して放つ。
結果、内藤は前蹴りをまともに受ける。だが、内藤は止まらなかった。
前に前にと突進力は、飛鳥を後方に弾き飛ばし、拳を振るったのだった。
しかし、万全と言えない打撃は、必殺とは言い切れず……
飛鳥は生存。 内藤は大きなダメージを負う結果になったのだった。
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