第3話 澱みの静けさ


「早く、早く」

うつむきがちに歩く道。後ろから聞こえる足音は、気のせい…だよね?



 いつも通りの帰り道、いつも通りの駅のコンビニ。何も変わらないはずの私の帰宅ルート。だけど最近何かがおかしい、気がする…

 試しに雑誌コーナーでふと女性誌を立ち読みしてみたが…やはりどこからか視線を感じるのだ。ここ数日、気のせいかと思っていたけどゾッとするような冷たい感覚が常に付き纏っている感じ。気にしすぎなのかもしれないし、仕事の疲れのせいなのかもしれないけど、どうも気持ち悪い。

 そして、今日疑いが確信に変わった。


「はー、もうこんな時間。早く帰らなきゃ。」

 久しぶりの残業をこなして最寄駅に帰ってきたのは夜10時30分。今からお店に夕食を食べに行くのはしんどいから、いつものコンビニでささっと食べれるものでも買って帰ろう。ビールもつけてね。

 レジを済ませて自動ドアを通る。その瞬間、体が固まった。

「また・・・?」

 例の嫌な視線を感じて反射的にコンビニ内に戻ってしまう。こんな遅い時間でも誰かが私を見ているのかもしれないと考えただけで身震いしてしまう。いつもならしばらくこのコンビニか、本屋で時間を潰してから帰るんだけれど、今日はもう遅い時間だし、早く家に帰ってしまわないと明日の仕事にも影響が出てしまう。迷った挙句、コンビニを出て早足で歩いている今に至る。


 知らず知らずのうちに早足に加速がかかってる気がする。パンプスのかかとが若干痛いけど、それよりも誰かの視線を感じながら夜道を1人で歩いていることが怖すぎて一歩一歩が大股になってしまう。その時、背後からすごい勢いで近づいてくる足音が。

「いやや・・・」

 恐怖でつい関西弁が飛び出してしまう。でももうそんなことは言っていられない。背後の歩く足音、いやむしろ走ってるのかなと思える速度で私に向かってきている。心臓の鼓動が早くなる。首筋の血管がドクドクと熱を持っているのがわかった。手に持つ携帯を握りしめる。

「お願い、神様!」

 足音が真後ろまで近づいて、そしてそのまま走り去っていった。

「・・・???」

 足音が真横を通り過ぎる瞬間は目をつぶってしまった。目を開けて恐る恐る周囲を見渡すと、遠くにランナー風の若い男性が走っていく姿が見えた。

「なんだ…びっくりさせないでよね、まったく。住宅街で走るんじゃありません!」

 一気に安心して口から愚痴がポロポロ出てきてしまった。いけないいけない。お嫁にもいけなくなってしまうぞ、私。

「おい、お前」

 低い声とともに肩を掴まれた。

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