第2話 帰宅/行動
「あっ、これ1個残ってる!」
仕事終わりの私のささやかな楽しみ、それは最寄の駅構内にあるコンビニで1日のご褒美を買うことだ。最近のコンビニはスナック菓子だけじゃなく本格的なスイーツも豊富で、しかも新商品がどんどん発売されるから飽きない。
「ブスギンがオススメしてたからなかなか手に入らなかったけど、今日はラッキー♫」
人気のYouTuberが動画でレビューしていたスイーツを手に取る。生クリームを甘く煮たバナナの皮で包んだ変わり種のスイーツ。やや高めなのがお財布に痛いけど、ここで最後の1個として出会えたからには家に連れて帰ってやろう。カゴに入れて飲み物コーナーに向かった。
コンビニを出てマンションに帰る道を歩き始めた。左手にコンビニの袋、右手には携帯を握りしめている。以前朝の情報番組でチラリと目にした、お手軽な女性の護身術らしい。私の住むマンションは駅近なお陰で帰り道もそんなに暗い道じゃないし、気にし過ぎかもしれないけど、女の東京1人暮らしは怖いのだ。職場の同僚も危ない目にあった話をしていたし、特に今まで何にも起こっていないのは運が良いだけかもしれない。
「だから私は今日も両手が塞がる〜♫」
東京の女1人暮らしは独り言が増えるし、オリジナルソングが往々にして生まれるのだ。
「この辺りだな」
今日も昼に目が覚めた。完全に昼夜逆転の生活になってしまっている。だけれど体調はすこぶる良いし、いやむしろまだ眠たいぐらいだから逆転生活サイコー。
今何をしているかというと・・・まあ一言で言うならFBIごっこだ。CIAごっっこでもいい。あとは想像してくれ。
「位置情報さえオンにしてくれれば毎回毎回こんな地道なことせずに住むのにっ。手間かけさせやがって!」
マンションまであと少しというところで右手の携帯がブルブルと震えた。画面を見ると通知が2件来ていた。
「珍しいな、こんな時間にメールか」
朝やりとりをした、無料ゲームアプリのライバルからまたゲーム内メールで連絡が届いていた。いつも深夜か早朝にしかメールは届かないから珍しい。アプリを起動してメールの文章を読むと
『スキアリ☆ダヲ』
と書かれていた。
「え、、、何これ?あ…あ…ああっ!」
今朝まで1位に私のユーザー名が載っていたランク順位画面に、そのメールの発信者、憎っくきライバルのユーザー名が載っていた。1位にだ。どうやら私が仕事をしている間にもこのユーザーさんはせっせとランク上げに励んでいたらしい。私も昼休みの僅かな時間を惜しんでランク上げをしていたが、負けた。
「くっそー!今すぐ反撃じゃー!」
一気に仕事の疲れが吹き飛び、私も一刻も早くランク上げ戦争に参加するために小走りでマンションに入っていった。
1人の女性の背中を遠目にじっと見つめる人間がいた。
「今、このタイミングで携帯見たなあの女。フフフ」
今日までの苦労がついに身を結ぶかもしれない。そんな高揚感が湧き上がってくるのを感じる。
「今日はいい1日になりましたよ、ありがとう」
高揚感を抑えつつ、この場所を忘れないように、住所を小声で呪文のように唱えながら帰宅するのであった。
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