第13話 下校
新学期が始まって間もない頃、彼女から告白を受けて、二人は恋人関係となる。
そして、なぜか彼女が彼を将来のための予行練習の相手として恋人に選んだのだ。
そんなことを思いながら、学校帰りに二人で街を歩いているときのこと。
「柳木君は学校に行くとき、家は何時に出るの?」
「いつもなら七時ぐらい」
「へえーそうなんだ……学校からは近いの?」
「家からだとだいたい三十分はかかるかな」
彼女は電車を利用することはないが家からそのまま歩いて学校に行くようだ。
多くの学生も彼女の方向から学校に通学する。
「もしよかったら連絡先交換しない?」
「それは……」
「ダメ?」
連絡先なんて交換してしまえば、連絡を取り合えば、おそらく僕が変装していることに気づかれてしまうだろう。
「連絡先は遠慮しておこうかな」
「ふ〜ん、じゃあこれはどうする?」
彼女の手元には、自分の携帯がある。
「いつの間に……」
「どうしても連絡先を交換しないなら、この携帯もらっておくね」
「分かりました。降参です」
「うん、よろしい」
このやり取りは一体なんなのだろうか?
「これでいつでも連絡できるね」
「うん……」
けど、僕の隣にいる彼女を見るとかなり楽しそう。
しばらくして向かう先に着き、この場所かどうかを彼女が携帯で確認する。
「ここかな……」
地図と照らし合わせながら、風景と一致させる。
「うん、ここで間違いない!」
「ここで合っている?」
「大丈夫だよ、空も暗くなっていることだし早く入ろ」
彼女に誘導され、店内に足を運ぶ。
「いらっしゃいませ、店内でお召し上がりですか?」
「はい」
二人は、現金を払い、空いている席に座る。
「ふう、やっと座れるね」
僕達が座っているのは、四角いテーブル一つに店の壁側にソファーとその向かい側に二つの椅子が並べてある。
なぜか向こうの椅子には誰も座らず、僕の隣に姫菜さんが座る形となる。そして、彼女は僕を見て嬉しそうに、にやけている。
「……どうしたの?」
「あっ……ううん、なんでもない」
なんだか彼女の様子がおかしいが、ひとまず店員さんに言われたレシートに書かれている番号札を確認し、そのままカウンターの前に持って来て、それと引き換えに注文した品を自分達の机の上に運んで席に座る。
「うわー、美味しそう!」
彼女は、目の前にある食べ物に夢中である。
傍目で見ていた僕は、自分が頼んだものに手を伸ばそうとすると
「ちょっと待って、一回写真を撮ってからにしていい?」
彼女は、並べられている食べ物の配置を調整して、写真を撮る。
「もう写真は撮ったから好きに食べいいよ」
そう言われて今度こそ手をつける。
「どう?美味しい?」
僕が選んだのは、このお店がオススメするハンバーガーだ。
「美味しい」
「それじゃあ、私も一口ちょうだい」
彼女にそう言われて、この間のことを思い出す。
「分かった。ちぎって渡すよ」
「うん!」
彼女はちぎったものを口に運ぶ。
「どうかな?」
「う〜ん、美味しい。私のドーナツも良かったら食べて」
二人は、互いに食べ終えると店の外に出て
「せっかく楽しかったのにあっという間に時間が来ちゃったね」
時刻はもうすぐ六時になり、あたりが暗くなる。
二人は駅に向かい、改札口を通ると
「今日は付き合ってくれてありがとね、帰ったらまた連絡するね」
お互いに手を振って、別々のホームに向かう。
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