第14話 登校

 —その翌日—


 朝の5時を迎え、いつもの時間に起床しカーテンを開けて朝日を浴び、外の景色を眺める。


 今日も一段と空が青に染まっている。


 彼は学校に行く準備に取りかかり、朝食は卵を乗せたパンとサラダに牛乳を机の上に乗せ、その後は学生カバンを持って家から出る。


 マンションの5階から降りて、扉を開けた先には目の前に道が広がる。


 駅まではここから歩いてすぐのところ。華さんもこの町に住んでいるようなので、姫菜さんとの関係であまり遭遇したくない。


 ひとまず見つからないようにして駅のホームまで急いで歩く。


 改札口に入りると、通常通り電車がプラットホームのところで差し掛かるのを見て、止まったら中に入って奥の方に座る。


 彼は普段からこうして電車の中で一人過ごしている。


 窓越しから見えてくるのは、ビルや住宅街などが見える。


 ようやく一息ついたところで正面を向けると視界の端に、同じ制服を着ている女の子がこちらにやって来る。


 知らないふりをしてよその方を見ようとしたとき。


「おはようございます、柳木さん」


 聞き覚えのある声が耳をかすめる。


「あの、聞いていますか?」


「あ、うん」


「もしよかったら、お隣に座ってもいいですか?」


 そして、彼女は僕の隣に座り、僕の方を見つめる。


「柳木さんはここの電車に乗っていつも学校に行かれているのですか?」


「はい、普段はここの電車に乗って学校に行きます」


「そうなんですね……まさか柳木さんと電車で会うとは思っていませんでした」


 今まで、彼女と合わずに学校に行けたのが不思議に思えるくらい。


「華さんは、いつもこの時間に来るんですか?」


「そうですね……図書委員の仕事があるときは、いつもより早く出ます。そうじゃないときはこの時間に来ます」


 しばらく電車に乗り続けてまもなく向かう駅に着く頃、彼のカバンからスマホのバイブが鳴る。スマホを手に取り、メールを開くと


『ちょっと遅れちゃうから先に行っててくれない』


 との内容が来た。


 ちょうど華さんと一緒に行っているので、余計な心配をする必要がないようだ。


 彼女にメールを返信して、すぐにスマホをカバンにしまう。


「誰からですか?」


「……友達からです」


 彼女にはとりあえずそう答えた。こうして、学校の最寄り駅の改札口を出て、街を歩く。


「それにしても、秋なのにまだ暑いですね」


 あたりの景色を見渡すと、まだ木の葉は緑色だ。けど、ちらほらと紅葉が見えてくる。


「ふふ、柳木さんの頭の上に葉っぱが乗っていますよ」


 それを見た彼は、自分の頭に手を伸ばして葉っぱを取る。


「取れましたか?」


「はい、取れましたよ」


 彼女が彼に笑顔を向ける。


 そして、後ろから誰かが走ってくる足音を聞き、そこに振り向くと


「はあ…はあ…はあ…」


 彼女は息を切らして、僕達の目の前に立ち止まった。


「ちょっと待ってね」


 膝に手を付けながら呼吸を整えると


「ふう……せっかくメールしたのに遅れてごめんね」


「うん、それについては問題ないよ」


 ただ、彼の懸念していたことが目の前で起きる。


「もしかして、姫菜さんですか?」


 彼女がその声の元、焦点を華さんに合わせた。


「え……どうして華さんがここに?」


「もしかして……二人とも知り合い?」


 まさか、華さんと姫菜さんに繋がりがあるとは思わない。


「うん、華さんはもともと私と同じ中学に通っていたんだよ」


 彼女達が通っていた中学は、山形県の方で、中学を卒業して二人が埼玉でたまたま出会うことになった。


「相変わらず元気そうですね、姫菜さん」


「華さんと同じ学校だなんて思わなかったよ」


 思わぬ再会に喜ぶ二人。


「あ、そういえば、どうして柳木君と登校しているの?」


「彼とは図書室でよくおしゃべりをしている仲なので、こうして、二人で学校まで一緒に歩いていたところですよ」


「ふ〜ん、そうだったんだ」


 彼女は彼を見てジト目になる。『ん?』と内心で呟く。


「姫菜さんも柳木さんのことをよくご存知なんですか?」


「うん、学校でちょくちょく話したりするけど、最近は連絡先を交換して、連絡を取り合っているよ」


「そうなんですね」


 ちなみに連絡先については先日交換したばかりである。


 そして、より一層華さんの僕に向ける笑顔がどこか怖い。


「それでしたら、私も連絡先を交換していいですか?」


 彼女達の間に挟まれた彼は八方塞がりの状況になる。後に、放課後の図書室で彼女と連絡先を交換することになった。 

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