第11話 夏祭り②
時刻は七時を回り、青黒い夜の色が頭の上に広がる。鳥居から拝殿に続く、一本の参道の両脇に屋台が広がる。その屋台の灯りが、にぎやかな一つの街を形作る。
お洒落な浴衣を着て、祭りを楽しむ地元民の姿が大勢いる。
二人は、屋台で買った食品容器に包まれた焼きそばと割り箸を持って、参道から離れたベンチに座る。
「柳木さん、髪の毛にごみがついています」
手を伸ばして、彼の頭についているごみを取る。
「もう取れましたので、動いていいですよ」
彼は彼女のことを気にせず、石畳をじっと眺めている。
「さっきから、ボーッとしていますが何かありましたか?」
彼の顔を覗き、それに気づいた彼は彼女に顔を向ける。
「ううん、なんでもない」
「かなり疲れている表情をしていますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
「……もしどこかで疲れたようでしたら、遠慮なく言ってくださいね」
心配そうな顔で僕を見る。そして、焼きそばを食べ始める二人。
「ここの屋台の焼きそばはしっかりとソースの味が染み込んでいて、美味しいですね」
「そうだね」
彼女と料理のことでいろんなことを話すと
「なんだかベンチで過ごしていると気分が紛れますね」
あたりを茫然と見て彼が一息つき。
「そういえば、華さんはどこかお出かけしてたの?」
「さっきまで、小説の打ち合わせで出版社にいました」
彼女は朝早くから電車に乗って出版社に赴いた。
「いろいろと忙しいんだね」
ちょうど食品容器に入っていた焼きそばを全部食べ終えると
「柳木さんはこの後、どうしますか?」
「もう少しだけここにいようかな」
そして、僕達がいる神社の夜空を見上げると、花火が打ち上がっている。
花火が炸裂するとともに耳の中で大きくこだまして、一瞬で儚く散る花火の細部まで片時も見放さず、夢みるような気持ちで眺めている。
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