第10話 夏祭り①

「撮影に入りますので、スタンバイしてください」


 彼は学校がない休日の日にテレビCMの撮影をするため、撮影現場に来ている。


 撮影現場は、都会から離れた海のリゾート地で行うとのこと。


 この日の最高気温は30°Cを超え、猛暑日となり、海辺には大勢の観光客でにぎわっている


 スタッフ達がカメラやマイクなどのセッティングを完了させると


「よーい、アクション」


 カメラが回り、撮影が始まる。


 空から降り注ぐ直射日光を浴びながら、懸命に演技をする。


 その横で見ている観光客は、彼の演技に視線を傾ける。しばらく経つと


「はい、カット!」


 撮影が終わり、砂浜の上に立て掛けられているパラソルの中に戻る。


「お疲れ様です」


 パラソルの中にはスタッフ達が拍手をしながら、彼を待ち構えていた。


「やはり、さすがですね」


「いえ……こうして僕が演技出来たのも皆さまがここまで準備をしてくれたおかげですよ」


 椅子に腰掛け、マネージャーと今後のスケジュールを確認して、車に一回乗る。そして、中で着替えた後は、待ち構えているファンのもとに立ち寄る。


 そこに僕と同い年くらいの二人の女の子が水着姿で色紙を持って僕のところに尋ねて来た。


「あの、サインお願いします!」


 彼女達が手に持っている色紙を取り、油性の黒いペンでサインをして、手渡しする。


「ありがとうございます、これからもずっと応援しています」 


 握手を交わした彼女達の後ろを見渡すと、ここに来た観光客まで列になって並び、後ろがいっぱいいっぱいになる。


 しばらく一人一人のサインを書き上げ、一息つく頃には午後の一時を回り、最後のサインを書き終えてようやくロケ車に戻り、そこで休憩を取る。


「おっ!やっと帰って来たな」


 助手席には、マネージャーが座る。


「海の撮影はどうだ?」


「はい、スタジオで撮るよりかはかなりいい絵が撮れたと思います」


「そうだろ!実際にここで撮った方が、映りが綺麗に見えるからな」


 二人で、車が出るまでに、今日の撮影のことを話す。


「この後は、特に予定がないから、車で現地に戻る間はしっかり休むといい」


 ここで少し遅めのご飯となり、車で移動しながら現地へ向かう。





 現地に到着した後はで解散した後は、直接駅に向かうようだ。


 しばらくして、駅の改札口を出て、再び家まで、歩き出す。そして、前へと淡々と歩いていく中、後ろから美声が僕の耳に届く。


「あれ?柳木さん……こんなところで会うのは、偶然ですね」


 後ろを振り返ると、可憐な女の子がそこに佇む。そんな彼女の格好は、どこかにお出かけでもしたかのような白のワンピースとその上に上着を羽織っている。


「もしかして、華さんも家に帰るところなの」


「はい、そうです」


 これはこれで、家が近くにあるというのは想定外だ。


「柳木さんもこの町に住んでいるんですか?」


「えっと…今日はこの場所で祭りをやると聞いたので、気分転換に来たかな」


 そして、この先の会話がないためか彼が沈黙を続けると、先に口を動かしたのは彼女の方だ。


「でしたら、私と一緒に回りませんか?」


「僕と?」


「はい、あまりこういうことは滅多になかったものですから」


 彼は高校生になって、あまり誰かと一緒になってどこかを見に行くことをしてこなかった。


「うん、それじゃあ、神社まで一緒に行こう」





 そして、二人は神社に到着して、お店の屋台を回ることにした。


 ここのお祭りは、地元で開催されて、二日間かけて行われて、子連れの親からお年寄りまで幅広くいる。


「いろんな屋台がありますね 」


 道の脇に並んでいる屋台は、人でいっぱい埋まっている。


「あれは、射的ですか?」


 彼女が向いてる方に目を向けると、テーブルの上には銃が並べてあり、棚の上には商品が並べてある。早速、彼女がその屋台に行き、お金を払って、机の上に置かれている銃を手にする。


「こうやって持つのでしょうか?」


 隣でやっている人の見よう見まねで銃を構える。


「お姉ちゃん、射的は初めてかい?」


 店番をしているいい歳した中年の男性が声をかけた。


「はい、初めてです」


「ちなみに何を狙うつもりだい?」


「あの箱を…」


「そうか、なら特別に前にずらしてもいいぜ」


「いいのですか?」


「ああ」


「ありがとうございます」


 どうやら気のいい人のようだ。そして、彼女は至近距離から狙って見事に的中する。その箱を受け取り


「また、うちに遊びに来な」


 手を振って、その屋台から離れる。


「よかったね」


「はい、お店の人がものすごく優しかったです」


「ちなみに華さんが狙った箱は?」


「これです」


 彼女が見せたのは真珠のストラップだ。


「どうですか?」


「うん、綺麗だね」


「そうですか、それは良かったです」


 二人は神社の参道を歩き、再び次の屋台へ目指す。

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