第11話
朝起きると由香里はこう言った。
「暫くお刺身はいいわ、美味しいけど続くと飽きそう」
「俺も同じ事を考えていた」
話し合った結果十日から二週間に一度と言うことでまとまった。お互い昨夜の刺し身の量のせいで食欲は無かったので馬刺しだけ食べる事にした、量は少なかったのでちょうどいい朝飯になった。リビングでくつろいでいると電話が鳴った、上野からだった。
「俺だ、どうした?」
『全く、あんたって男は大したもんだ』
「話が見えんな」
『昨夜遅くにうちの若いのは全員病院に搬送されたよ』
「何でだ、やられた振りだけで良かった筈なんだが」
『あんんたが余程怖いみたいで、四人でお互いをナイフで切りつけ合ったみたいだ』
「そこまでする必要はあるのか?」
『まあな、やられた振りだけではいずれバレるからな、それにうちの組長とは違ったカリスマ性があるようだ、組長は陽気なカリスマ性あんたは恐怖のカリスマ性と言ったところだろうか』
「初めて言われたよ、だが俺にカリスマ性があるんだろうか? あったとしても実用性ゼロだな」
『ともかくこれで俺のとこは全滅って事だ、そろそろ樋口が動く、それを言いたかっただけさ』
「そうかわかったよ、いつも済まないな」
『俺もあんたの恐怖のカリスマ性に怯えているのかもしれんな、また掛ける』
電話を切ると、側で盗み聞きしていた由香里がまじまじと俺を見てくる。
「確かに恐怖のカリスマ性は持ってるかもしれないわね」
「そんな物はいらないな、役に立たん」
「あら、役に立ったから四人が自ら進んで脱落したんじゃないかしら?」
「まあそうだが、カリスマ性なんか自分じゃ全くわからんな」
「そんなものよ、人に言われて初めて気付くのが普通なんだと思うわ」
由香里は片付けに戻って行った。由香里は最近電話が鳴ると近づいてきて、言わなくても音一つ立てない習慣が日課になっている。
暫くすると早速携帯が鳴った、樋口からの着信だ。
「樋口か?」
『そうだ、あんたが緋村って荒っぽい探偵かい? 上野のところは片付けた様だな』
よく通る声だもっと低い声だと思っていたが、予想より高い声だった。
「あんな素人一人一分もかからないね」
『これからはヤクザの本当の怖さを知ることになるだろう、うちのグループは荒事担当なんでな』
「それにしては、上野のナイフで左目を潰される程度のグループなんだな、竜児に俺を潰せと言われてるそうだな」
『目の事は上野に聞いたのか? それと親分との会話はどこで聞いていた?』
「いや、見てたからな。それにその程度の情報収集は簡単だ」
『まあいい、上野に復讐出来ない分はあんたで楽しませて貰うぜ、今日は宣戦布告の挨拶に掛けただけだ』
「がっかりさせるなよ」
『腕利きのグループだ、正々堂々と殺らせて貰おう、拳銃は使わないナイフで切り刻んで殺すと宣言しておこう、またかける』
電話が切れた、これでようやく樋口が動き出した。しかも拳銃は使わないと言った、これで俺にも勝機が見えてきた。上野に掛けてみる。
「俺だ、樋口から宣戦布告の電話があった」
俺は一通りの事を話した。
『緋村さん、あいつは有言実行だ、銃を使わないと言ったのなら本当に使わないだろう。あんたにも勝てる気がするよ、それに警察のガサ入れがしょっちゅう入るから銃は余程の事がない限り出てこないって事情もある』
「それなら俺が倒せる可能性が高いな」
『それはあり得るが全員格闘技のプロでもあるしナイフ使いも大した腕前だ、あんたの腕前でも奴ら五人相手に勝てるかは疑問だ』
「まあ何とかなるだろう、俺もプロのキックボクサー相手に十連勝中だ」
『凄いな、しかしあんた楽しそうだな』
「そう言われるのも二人目だ、とりあえず用件はそれだけだ邪魔したな」
電話を切ると由香里はホッとした表情をしていた。拳銃が出てこない事に安心したんだろう、俺も少し安心していた。
樋口の下っ端が動くまでそう遠く無いだろう、気を引き締めた。
「今から少し出掛ける」
「敵の視察?」
「そうだ、どんな奴等が相手になるのか確認くらいしておかねばな」
早速着替え出掛ける準備を済ませた。
「二時間程で戻ると思う、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
とりあえず島村組の事務所まで車を走らせ出入り口付近に車を止めた、ここなら顔が視認出来る距離だ。
樋口達が事務所から出てきて昼飯に向かったようだ。全員の写真を撮っておいた。
耳が潰れている奴が二人と鼻梁が潰れているのが樋口含め三人、耳が潰れているのは柔道かレスリングだろう、体格からして柔道をするみたいだ。鼻梁が潰れている奴は殴り合いタイプだ、ボクサー崩れだろう。全員体格は良かった、こいつら全員を相手にするのは骨が折れそうだ。
確認が終えたので帰ろうとした時に竜児が表に出てきた、どんなカリスマ性を持っているのか確認したかったが車を発進させ家路についた。
「あら、早かったのね」
「ちょうど昼食時だったからすぐに確認出来たよ」
「そう、あなたお昼ご飯まだでしょ」
「ああ、腹が空いた」
「簡単な物を作るわ、くつろいでて」
俺は豆乳とコップを持ってリビングに腰を下ろした。先程の写真を見直しながら顔を頭に叩き込んだ。
「出来たわよ」
カツ丼が用意された、ゆっくり味わって食べる、カツが柔らかくて美味いがすぐに食べ終えてしまった。
ごちそうさまと言いリビングに引き返す。やることがなくなったのでタバコに火を付け考えるが、こればかりは相手の出方次第だ考えても仕方ない。
「レミーに行こうか、甘いものが食べたい」
「いいわね、着替えるわ」
由香里が着替えるのを待って、レミーに歩いていった。
「荒木さんいらっしゃいませ」
「いつものパフェを二人分頼むよ」
「わかりました」
マスターがパフェを持って来た、テーブルに並べながら小声で話す。
「ごめんなさい、今日は情報は入って来てないんです」
「気にすることないさ、マスターは気にしすぎる面がある」
「そうでしょうか? また何かあれば報告しますね」
と言い持ち場に戻って行った。
俺はパフェを食べ始める、こういう物は男一人だと何故か気まずいのだ、由香里がいてくれて助かる。
パフェが大きいせいか由香里が途中でギブアップした、俺の方へ回してくる。ラッキーと思い残りを平らげた。
「いつもは全部食べるのに珍しいな」
「ここのは量が多いわ、私は半分くらいで十分過ぎるの」
「俺がいつもキングサイズを頼むからだな、由香里は次からレギュラーサイズを頼むといい、多分ちょうどいい量の筈だ」
「そうするわ」
会計を済ましマンションに戻った。
暫くくつろいでいると電話が鳴った、松本と表示されている、電話を取った。
「樋口のところの者か?」
『ああ、そうだ。兄貴から殺れと言われている、悪いが付き合って貰おう』
「場所と時刻は俺が決めさせて貰う」
『いいぜ、目立たないとこにしてくれよ』
「勿論だ今から二時間後、港のコンテナ置き場だ、一人で来いよフェアにやろうぜ」
『いいだろう、じゃあ十五時に港へ行く』
電話が切れた。
「あなた、とうとう動き出したわね、大丈夫なの?」
「ようやく動き出したって方が正しいな、大丈夫だ向こうもフェアプレイで来ている。ヤクザとは思えん律儀さだ、二時間後と言ったが向こうが小細工出来ないように俺はすぐに出掛ける」
「その方がいいわね、気を付けて」
「十八時までには戻れるはずだ、もし遅くても心配はするな、行ってくる」
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