第8話
数コールで上野が出た。
『あんたか、もう連絡しないんじゃ無かったっけ』
「特別だ、村田夫妻を殺しただろ」
数秒沈黙があった。
『俺が直接手を下した、緋村さんあんたはあの夫婦はどうなっても構わないと言わなかったか? だから殺した』
「ああ、あの夫婦についてはどうなっても構わないが真実を知りたかっただけさ」
『探偵の性ってやつか』
「どうして俺が探偵だとわかったんだ?」
『情報屋から聞いた、荒っぽい事専門の探偵が一人いるとな、あんたの事だろ?』
「流石だな、その通りだ」
『だが緋村と言う探偵は江口って奴に撃ち殺された筈だが』
「そうだ、緋村の意志を引き継いで代わりに探偵になった、だから緋村と名乗っている」
『あんたの本名には今は興味無い、それよりも俺があの夫婦を殺したことで組内での俺の立場が危ないんでな』
「そうか、村田夫妻を殺したことは黙っておいてやる、聞きたいことは聞けた切るぞ」
電話を切った。
「雲行きが怪しくなってきたな」
「上野って人が勝手に殺したんでしょ、あなたには関係ないわ」
「そうだな」
俺の携帯が鳴った、梨香からだ。
「俺だ」
『荒木さんニュース見ました?』
「ああ、お前らの元両親が自殺した件だろ? 確かどうなっても構わないと言ってなかったか?」
『ええ、どうなってもいいけど自殺か他殺のどちらだと思います?』
「他殺だ、今犯人と連絡したところだ。お前らはあまり深く関わらない方がいい。言ったろ? アフターケアは任せておけ」
『わかったわ、普段通りに生活するわ』
電話が切れた。何か引っかかる何だかわからないが嫌な予感がする、事件は丸く収まったはずなんだが。
「あなた、深刻な顔をしてどうしたの?」
「いや、何か引っかかるし嫌な予感がするから考え事をしてた」
「事件は終わったのよ、嫌な気分も気のせいだと思うわ」
「だといいが、暫く様子見だな」
「それでいいわ、今夜のハニーズは止めて家で新鮮なお刺し身を食べましょ」
「そうだな、新鮮なうちに食ってしまおう」
夕方までまったり過ごした。一応事件は解決したのだ。
「晩ご飯の準備が出来たわ」
キッチンのテーブルに付く。また大量な刺し身が並んでいる。さしみ醤油に特製ダレを混ぜ、いただきますと言い食べ始める。やはり新鮮な刺し身は美味い、この前より少ない様だ、この量なら食べ切れるはずだ。
「やはりここの魚は安くて美味いな」
「普通のお寿司屋でもこんなに美味しいのはなかなかないわよ。それに料理する手間が省けて楽だわ」
安藤の携帯が鳴った。
「あなた、電話取らなくていいの?」
「今は食事中だ、邪魔されたくない」
二十分程かけてゆっくりと刺し身を平らげた、ごちそうさまといいリビングに移る。
安藤の携帯をチェックする、上野から掛かっていたようだ。リダイヤルする。
「俺だ」
『あんたか、さっきも掛けたんだが』
何か上野は苦しそうな声だった。
「飯の間は邪魔されたくないからな。どうした? リンチでもされたのか?」
『よくわかったな、俺があの夫婦を殺したのは関係ないが、部下があんたにボコボコにされて、誰にやられたのかを問い詰められた結果がこの有様だ、勿論あんたの名前は割らなかったが携帯を見られた、再起不能の安藤と連絡を取っている事に疑問の声が上がっている、もしかするとあんたを巻き込んでしまうかもしれない』
「わかった、怪我をしてるんだろ? あまり喋るな。お前がこんなに義理堅いとは思わなかったよ」
『ヤクザとは言え俺も男だ、プライドくらいは持っているつもりだ』
「気に入った、今度同じ目に合ったら緋村の名前を出してもいいぞ」
『わかったがそうするとあんたが危ないかもしれない、樋口に気を付けろ荒事担当だ』
「わかった、それより病院に行け」
『大丈夫だ鎖骨と肋骨が折れただけだ、じゃあ切るぞ』
電話が切れた、やはり俺の勘は当たるのかもしれない。
「あなたが予想してたようにまだ続きそうなの?」
「ああ、恐らくな。だがまだ動き出した訳じゃない、考えても無駄だ」
上野は樋口が荒事担当だと言っていたが、どの程度荒っぽいのか確認しておく必要が出てきたが、どうやって確かめるか術がなかった。上野なら知っているだろうか?
「ラーメンかレミーに行かないか?」
「いいわよ、両方行きましょ」
まずラーメンを食べに行った、あれだけ刺し身を大量に食べたのにまだ食べれた。
帰りにレミーに寄る、コーヒーとパフェを注文した。甘いものは別腹だ。マスターが近づいて来て小声で話す。
「さっき島村組の組長と樋口が来てました」
「会話は聞こえたかい」
「ええ、島村が樋口に上野から電話の相手を聞き出して始末しろと言ってました。電話の相手って荒木さんじゃないのですか?」
「ああ、電話の相手は俺だ。樋口が動き出したか」
「明日、上野を更に問いただすと言ってましたよ、他は他愛ない話でした」
「そうか、思わぬ収穫だありがとう」
情報料として一万円を握らせた、口止め料も入っている。マスターは少しためらったが無理やりポケットにねじ込んでおいた
「口止め料も入っている」
「他言はしませんよ、荒木さんだから教えたんですよ」
「また頼むよ」
マンションに帰ると上野に連絡を入れる。
『あんたか、まだ聞きたい事があるのか?』
「ああ、樋口がどれくらいの荒事をするのか聞いておきたい」
『殺人も平気でするような男だ、部下は四人いて全員格闘技の有段者らしい、拳銃は使わないがナイフの扱いにも長けている』
「そうか、俺からも情報を一つ。明日樋口が更にお前を問い詰めるそうだ、一時的に身を隠した方がいいんじゃないか?」
『ありがとう、しかしいずれ見つかる。明日も覚悟しとかなきゃいけないな』
「今夜はそれだけだ、殺されるなよ」
電話を切った、何故俺が上野を庇っているのか自分でも不思議で苦笑した。
「あなた、まるで上野とつるんでるみたい」
「俺も今そう感じて、おかしく思ってたところさ、だが相手はヤクザだ手を組む事はないがな」
「安心したわ」
「俺は誰とも手は組まない、これからも緋村と名乗って一匹狼を貫くつもりだ」
「それでいいわ、しかしマスターが話していた事が本当なら次はあなたが危ないわ」
「心配しなくていい、何とかするさ」
何故だか俺は楽しい気分になっていた、恐らく強い相手がいるからだろう。しかし失敗すればこっちが殺される、気を引き締めた。
上野は殺されるのだろうか? いや殺されはしないだろう闇金で稼いでいるのだ、組の資金源として重要な立ち位置にいるのだ。新しく部下が出来て闇金業を続けるだろう。
「あなた、もう寝ましょ」
寝室に行きベッドに潜り込んだ。
アラームで目が覚める、今朝はとんかつの日だなと予想し、リビングに行き豆乳を飲んで待った。
「出来たわよ、毎日同じメニューだと飽きるからちょっと変えてみたわ」
キッチンのテーブルに着くとカツ丼が出てきた、半分正解と言ったところか。
「これは美味そうだが特製ダレは?」
「もう混ぜてあるわよ」
早速食べ始める。
「こいつは美味いな、我が家のメニュー入りにしてくれ」
「あなたの好みは簡単で助かるわ」
「丼ぶり物は好きなんだ親子丼や他人丼も好物だ」
「楽なものばかりね、任せて」
ごちそうさま、美味かったよと言いリビングに移る。
「今日の予定は?」
「特に無いが、上野から連絡が入るかもしれないし、少し島村組の様子を見ておきたい」
「わかったわ」
俺は着替え出掛ける準備をし。行ってきますと言いマンションを出て島村組の事務所へ向かった。
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