第7話

 腹が減って起きると十七時半だった。


 すでにいい香りが漂ってきている。


「起きたのね、聞き慣れない着信音が何度か鳴ってたわよ」


 安藤の携帯だろう、見ると不在着信が三回鳴っていたようだ。掛け直してみる。


「俺だ」

『あんたか、うちの子分が帰って来ないのはあんたが何かしたのか?』

「まだ見つけてないのか、他に手の空いてる奴に探させろ」

『俺の部下はあいつらだけだ、他の奴に借りは作りたくない』

「じゃあお前が探せばいいじゃないか、吉田や川瀬それに樋口と対立しているのか?」

『何で名前を知っている? まあいいがこっちにはこっちの事情がある』

「そうかい興味無いね、俺は今から晩飯だ切るぞ」

『待て、三人の居場所のヒントだけでもくれないか?』

「村田夫妻のマンションの近所だ、じゃあ切るぞ」


 電話を切りキッチンのテーブルに着くと、ガーリックライスとステーキととんかつが用意された。


「今日はこっちの特製ダレを使ってちょうだい、特別な特製ダレよ」


 匂いを嗅いだり色を見たがいつもと同じ様に見える。いただきますと言い特製ダレを混ぜて食べ始める。美味い、汗が吹き出してくるが構わず食べ続けた。


「どこがどう特別なんだ?」

「企業秘密よ」


 食事が終わりリビングにに移るとすぐに電話が鳴った。


「俺だ見つけたか」

『ああ、見つけたが三人共再起不能だ、一人は気が狂ってしまっている』


 泣いている。


「村田夫妻の貯金通帳はあったか?」

『ああ、これであの夫婦からの借金はチャラだが、俺の怒りと悲しみはどこにぶつければいいんだ?』

「あの夫婦にぶつければいい、部下から聞いてないのか?」

『一通り聞いた』

「じゃあ祐一には今後一切関わるなよ、約束出来るか?」

『わかっている、もう二度と手出しはしないと約束する』

「だったらこれで上野、あんたと喋るのは最後だな。じゃあな」


 側で聞いていた由香里が口を開く。


「事件は解決したってことでいいの?」

「今のところはな、だがこれを知った島村組がどう動くかによる、祐一はもう大丈夫だ」

「じゃあ早く梨香さんと祐一君に教えてあげたらどう?」

「そうだな」


 俺は梨香に電話を入れた。


「俺だ、荒木だ」

『何か進展はありましたか?』


 俺は細かく説明してやった。


『ありがとうございます、今度は元両親が危ないんですね?』

「殺されるかも知れんがいいのか?」

『構わないわ、それより荒木さんに報酬を支払いたいので口座番号を教えて下さい』

「わかった、それと後三日程は祐一に出掛けないように伝えてくれ」

『わかりました』


 俺は口座番号を教え電話を切った。


 夜のニュースが始まった、今回の事件は大きく取り扱われていたが、縄張り争いと言うことになっていた。上野がどう動くのかが気になったが関係のない事だ。村田梨香と祐一さえ助かればそれでいい。


「依頼の報酬はいくら貰うつもりなの?」

「決めるのを忘れてたよ」

「あなたらしいわね、でもヤクザ相手に命懸けで戦ったんですもの、それなりの報酬は受けるべきだわ」

「いくらでも構わんよ」


 俺はパソコンで口座を確認してみた。


「梨香から二百万振り込まれている」

「それはちょっと多いんじゃないかしら」

「だよな今度話してみるよ」

「梨香さんもいくらお金を持ってるからって金銭感覚が麻痺してるわね」

「お前からそんな言葉を聞くと思わなかったよ」

「あなたにお金の大事さを教わったのよ」


 二人で笑いあった。


 いつも通り二人で風呂に入り体の疲れを癒やした。


「明日からまたのんびり出来るな」


 風呂から上がってコーヒータイムだった。


「じゃあ明日はレミーとハニーズと買い物に行きましょ」

「ああ、いいぞ」


 俺達は早めにベッドに入り、久しぶりに由香里を抱いた。


 翌日、起きると疲れは完全に抜け気分爽快な気分だった。


「昨日の特別ダレのお陰か朝から調子がいいぞ、何を入れたんだ?」

「普段の特製ダレににんにくと唐辛子を増やして玉ねぎをプラスしただけよ」

「それだけでこんなに元気になるなら今度からそのレシピで頼む」

「わかったわ、私も特製ダレのお陰でお肌の調子がいいわ、疲れも溜まらないし」


 朝食を食べて暫くするとレミーに行った。


 マスターが笑顔で迎えてくれた。


「特に情報は入っていません、荒木さんが上野のグループを潰した事しか収穫はありませんでした」

「構わんよ、もう事件は解決した」


 二人でコーヒーとパフェを注文し、食べているとマスターが近寄って来た。


「依頼人の村田さんが来られましたよ」

「ちょうどいい、こっちへ呼んでくれ」


 マスターに呼ばれ梨香がやって来た。


「ご一緒してもいいのかしら」

「そのために呼んだんだ」


 梨香はサンドイッチとコーヒーセットを注文した。


「報酬の件だが、二百万円は多すぎる半分返すよ」

「いえ、構いません。私と祐一の二人分の報酬ですから、それに相手はヤクザでしたし」

「わかったよ、アフターケアの分として戴いておこう」

「アフターケアってまだ何かあるの?」

「わからないが、祐一を拐うように支持を出した上野って男が残っている。話し合いでこれ以上祐一に関わらないように脅しておいたから問題は無いだろうが万が一のためさ」

「そう、安心したわ。昨日から元両親から連絡が入らなくなってそっちも安心しました」


 連絡が途絶えた事に違和感を感じたが、親子の縁を切っている、問題無いだろう。


 三人共食べ終わったので俺はレシートを掴んで立ち上がった、二人も立ち上がる。


「またジムで会おう」

「ええ、今回はありがとうございました」


 レミーを出てそのまま買い物に行った、いつもの肉屋と魚屋だ、肉屋から入る。


「やあ、荒木さんいらっしゃい」

「いつものお肉を貰えるかしら」

「あいよ、切るからちょっと待ってくれ」

「馬刺しはあるかい」

「肉なら何でも扱っている、馬刺しもいるかい?」

「ああ、二人分多めに頼む」


 肉を買うと隣の魚屋に入った。


「荒木さんじゃないか、今日はどうする?」

「いつもの刺し身をお願いするわ」

「サメとエイも少し入れてくれ」

「珍しいね、珍味だが美味いよ。気に入ったらまた買ってくれ」


 新鮮な美味い肉と魚を持ってマンションに帰った。


「前に魚屋の店主が言ってたようにサメとエイは早めに食べてしまおう」

「じゃあ今から用意するわ」


 すぐに食卓にガーリックライスと刺し身が並んだ。


 エイから食べてみるが大して美味しいとは思わなかった、サメを食べてみる独特な風味だ。


「由香里、どう思う?」

「私には合わないわ」

「癖がきついからな、これはもう買わなくてもいいな」


 残りを平らげリビングでくつろいだ。テレビを付けてみる、以外なニュースが飛び込んできた。村田夫妻が部屋で首吊りをしてるのを、隣の住人が発見したらしいが、体に殴られた跡があるので、他殺と自殺の両方で捜査が始まるらしい。


「無一文になって自殺したか、島村組が絡んでいるな」

「私は島村組が絡んでると思うわ」


 俺はテレビを消し、由香里に人差し指を口に当てると上野に電話をした。

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