第4話
昼から動き回ってわかった事は、村田梨香の両親隆と良枝は遺産でマンションを買い高級車を数台持っており派手に遊び金をほとんど使い尽くして、最後の賭けに島村組から金を借りその金でまた一山築いたみたいだが、島村組は高利貸しをしており、両親は利子の返済に追われて車も売り、利子を払い返しているみたいだが追いついていないようだ。
島村組は絶縁した子供の祐一からも金を巻き上げようとして誘拐未遂を起こしたようだった。
村田夫妻の貯金は一千万ほどしか残っておらず、まだあまり金を使っていない息子の名前を出した様でそれがきっかけで祐一が危険な目に会っている様だ、姉の梨香の存在は今のところ島村組も掴んでいなさそうだった。
俺は村田夫妻のマンションを訪ねた。ドアにはスプレーで金返せなどと落書きがしてあり、何かで殴ったのかドアは凹んでいる箇所がいくつもあった。
チャイムを押すが返答はないが明らかに人の気配がする。俺は大きな声で呼びかける。
「村田さん、祐一君の代理人です」
するとインターホンから声が出た。
「祐一が金を返したのか?」
男の声だった、父親の隆だろう。
「祐一はあんた達と絶縁したから一円も出さないそうだ、姉の梨香も同じ返答だったのでそれを伝えに来ただけだ」
側で良枝も聞いていたのだろう、金切り声で。
「私達の子供よ、子供が親の面倒を見るのは当然じゃないの。あんた誰よいくらで雇われたの? 倍出すわ、あの子から一億円だけでいいから取ってきてちょうだい、何なら殺してもいいわ」
「断る、俺はいくら積まれても祐一を守る、自分の子供を殺してでも金が欲しいのか、俺はそう言う人間が大嫌いだ、じゃあな」
父親が何か言ってたが無視して帰った。
家に着くと飲み物が出された。
「おかえりなさい、元気ないわね」
「ああ、村田夫妻に会いに行ったが、俺に梨香の弟を殺してでもいいから金を奪って来いだとよ、昔の俺の親戚を思い出して気分が悪くなっちまった。今から梨香に報告するのに気が重いよ」
豆乳を一気に飲み干した。
「なんて親なのよ、そんなの絶縁して当然よきっと罰が当たるわ」
珍しく由香里が怒っている。俺は仕事だからと割り切って梨香に電話を入れた。
「俺だ、荒木だ」
『何か進展ありました?』
「お前たちの境遇は調べがついたんで、両親のとこへ行ってきたよ」
『その声からだと悪いニュースを聞かされそうだわ』
「その通りだ、お前らを殺してでもいいいから金を奪って来いと言われたよ」
暫く沈黙があった。
『やっぱり、そういう親だと思ったから、祐一と私は親と絶縁して家を飛び出したのよ』
意外とあっけらかんとした答えだった。
『で、荒木さんはどうするつもり?』
「俺はお前らの味方だ心配するな」
『そっちの心配はしてないわ、私達の元両親をどうするつもりって聞いたの』
「ああそっちか、元両親をぶん殴ってやりたい気分だよ。それよりお前らの家はバレて無いだろうな?」
『祐一の顔はバレてるけど家まではバレてないわ、私の顔もね』
「それなら、焦って行動しなくても済むな」
『祐一は暫く家から出ないように指示しておくわ』
「それでいい、俺は追ってを探して始末するよ」
『いくら相手がヤクザだからって人殺しは駄目よ、荒木さんを殺人犯にしたくないわ』
「わかってるよ、前の島村組の時のように上手くやるさ、今日の話はここまでだ」
電話を切ってタバコに火を付け考える、上手くやると言ったがどんな相手かわからないから前よりも慎重に事を進めなければならない。
不意に電話が鳴った、梨香ではない。
『もしもし、村田梨香の弟の祐一です』
「さっき姉の方に連絡したぞ」
『はい、今聞いたところです。俺が連絡してお願いするのが筋なのに、ややこしくしてしまってすいません』
「そういや、初めてだな」
『はい、遅れましたが守って下さいよろしくお願いします』
かなり若い声だ、梨香も幼い声をしているが二人共しっかりしている。
「お前歳はいくつだ?」
『二十歳です、姉は三つ上で二十三歳です』
「若いな、話は変わるがお前の姉にも聞いたがお前の元両親がどうなっても構わないか? それだけ教えてくれ」
『もう三年も前に絶縁したんです、もうとっくに親だとは思ってませんのでどうなっても構わないです』
「だったら俺もやりやすい、暫くお前は家から出るなよ。後お前を拐おうとした奴の顔やら車のナンバーは覚えてるか?」
『いえ、咄嗟の事だったので覚えてません、姉が悲鳴を挙げたのでさっさと逃げて行きました』
「そうか、とりあえず電話は姉の梨香と俺の電話以外全て無視しておけ、いいな」
『わかりました』
電話を切った、焦ることはないゆっくり片付けていいのだと自分に言い聞かせる。
「ちょっと長井と話をしてくるすぐ戻る」
「いってらっしゃい」
ジムに着くと長井は休憩中だった。
「あんたか、村田お嬢さんから依頼があったのかい?」
「ああ、昨日の夜にはメールが届いてて今日会って話を聞いてきた」
「で、どうするんだい受けるのか?」
「お前も俺を勧めたんだろう、引き受ける事にしたよ」
「そうか、しかし勧めといてあれだが、新しい島村組は人数も多いし俺はあんたが心配だよ」
「問題は人数じゃない、何丁拳銃を持ってるかだ」
「あんたならそう言うと思ったよ」
「と言うわけでまた忙しくなる、暫く来れないかもしれない」
「あんたに一発入れれるように練習しておくさ」
じゃあなと手を挙げジムを後にした。
帰りがけに祐一と梨香のマンションに寄ってみたこちらもオートロック式のマンションだ、簡単には忍び込めないだろう、それを確認し梨香に電話を入れる。
「俺だ」
『荒木さんどうしたの?』
「今そっちのマンションを調べに来た、梨香と祐一の部屋番号は?」
上から窓を開ける音がした、見上げると梨香が手を振っている。電話越しに話す。
『五百一号室と五百二号室よ、隣合わせで買ったの、お茶でも飲んで行きますか?』
「そうさせてもらおう」
マンションの扉が開いた、遠慮なく入る。五百一号室の梨香の部屋に入った俺のマンションと見劣りしないマンションだ。
「祐一も呼んでくれないか?」
「わかったわ呼んできます」
すぐに二人で戻ってきた。祐一は意外とガッシリとした体型だった。
「初めまして、祐一です」
「二人共若いのにしっかりした受け答えで助かるよ、何か運動部に入ってたのか?」
「俺がサッカー部で姉はテニス部でした」
「梨香はそこのジムでエクササイズボクシングをしてるが、お前はやらないのか?」
「あまり通ってないだけで一応入会はしてますよ」
「そうか、梨香はいいが祐一お前は暫く家から出入り禁止だ」
「わかってます」
「梨香のエクササイズボクシングってどんなことをやるんだ?」
「何段階かあるんですけど、私のは一番上のコースだから普通のキックボクシングと変わらないわ」
「じゃあ街で絡まられても一人くらいなら何とかなるのか?」
「ええ、私も祐一も相手が一人ならやっつける事くらいは出来るわ」
「お守りをしなくても平気そうだな、俺の仕事がやりやすくなる」
「でも荒木さんほど強くないわ、以前私達二人で荒木さんと長井さんとの試合を見てたけど凄かったわ、私たちは森さんを何とか倒せる程度よ」
俺は森を数秒で沈めてしまったが、森も一応セミプロだ、そこまで強いのなら少しは安心してていいかもしれない。
「安心した、だが今度の相手はヤクザだ、ナイフや拳銃を持っている可能性が高い、下手に手を出すなよ」
「わかってます、前の島村組の事件ニュースで見たけど荒木さんみたいな真似は私たちには出来ないわよ」
「わかってるならいい、今日は顔合わせとその注意をしに来ただけだ、帰るよ」
立ち上がり部屋を後にした。
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