『ピアノさんたちの逆襲』 (後編)
『第2回焚楽器大会』は、秋も深まった11月の初めに、予定どおり、開催されたのである。
今回は、さらに、ショーとしての様相を強くせよ、と、総理が主張したらしく、巨大なステージがふたつ用意されていた。
酒池肉林みたいなことを、考えていたのである。
それだけでも、総理が、いかに残忍な性格かが分かるものだと、原馬子北海道首相は考えていた。
その日の朝、首相には、不可思議なメールが届いていた。
『ときはきました。針は、落ちるのです。あなたは、やるべきをしてください。』
差出人は、『排斥されたピアノたち』、だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・🕑 🎹
巨大なステージの上には、大量のピアノさんが並べられた。
ほかのありとあらゆる楽器さんが、隙間を埋めているのである。
大物では、ハープさんが、上手端っこの指定席に整列させられている。
打楽器類さんは、雑に放り上げられていた。
管楽器類さんたちは、壊れた工場の配管みたいだ。
弦楽器さんの弦は、ちぎれたり、ねじ曲がったりしいて、すでに凄まじい拷問の跡が見える。
弓さんは、楽器として扱われなかったらしい。
指揮台さんや譜面立てさんや、楽譜類さんまでもが、多数、積まれている。
もう、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』、のである。
で、その反対側・・・つまり、通常ならば聴衆側の最前列・・・には、大砲や、機関銃や、火焔放射機などを持った兵士たちが整列している。
さらに、その背後には、最新型の戦車までもが、配置されたのである。
しかも、4両もである。
聴衆と言うか、会衆たちは、その後ろに、いやというほど、ぎっしりと詰め込まれていた。
そうして、さらに、その上空には、極秘に開発された新型戦闘爆撃機が現れたのでありますぞ!
そいつは、ほぼ、『U.F.O.』であった。
高速で移動したり、停止したり、急上昇したりしているのである。
合衆国総理は、満面の笑みを浮かべ、さも満足そうに、一段高い豪華な座席にふんぞり返っていた。
『むかしは、ああじゃなかったのにな。あれで、ベートーヴェンが好きだった。』
原北海道首相は、内心思ったのだ。
このふたりは、大学で同期だったのである。
原首相は、その後さらに音大に進んだが、彼は政治家の道を歩んだ。
保守的な彼女と、進歩革新派の彼。
『いつのまに、逆になったんだろうか?』
一時期は同棲もしていた間柄だったが、最近はお互いに無視しあっている。
歳月というものは残酷なものだと言う事は、まあ常識としてもだ、それにしては、なんで、あのスマートで過激で敏腕な弁士で活動家が、こおんな、ぶよぶよの、欲の塊みたいになるのだろうか。
『ばっかみたいだ。』
しかし、北海道首相は、彼女自身が新開発した、ある機器を持ち込んでいた。
例の武器の、小型応用進歩版である。
それは、武器感知センサーには、引っかからない種類の物質で作られていたのであった。
『さあ!みんな、カウントダウンだあ!いくよお!』
テレビでも有名な、タレント・アナが叫び出した。
ご丁寧にも、相方は、最近人気のアイドル女子、『ぴんころりん』である。
歌は、歌わない。
歌を歌わない、新型アイドルである。
『かわいそうに。断れないわよね。よおおく、見てなさい。』
大きな時計が天井から降りて来て、最後の時を刻む。
そうして、・・・・・針は落ちた。
北海道首相は、ブレスレットの感応装置に『喝』を入れた。
何かが変わった。
まず、拡声器が使えなくなった。
無線もダメ。
戦車の原子力エンジンが止まった。
すべての武器が、氷ついたように超低温となり、兵士たちの手にくっついてしまうか、放り出された。
上空の戦闘機が、ふらふらになり、不時着してゆく。
合衆国総理は、顔色を変えた。
側近たちには、なにが起こったかまだわからない。
司会者と舞台スタッフは、うまく反対側に逃げ出した。
北海道首相は、逃げるでもなく、指定席から、このユーモラスなハプニングを見つめていた。
『くそ、あいつだ。あの女だ。あいつを拘束しろ。』
総理が叫んだ。
しかし・・・・・・・・
舞台上のピアノさんが、ごくっと、動いたのだ。
最初は、少しだった。
会場は、静まり返った。
それから、総員注目の中で、じりっと、また動いた。
軍隊には、もう、使える武器はない。
そうして、ついに、それは起こったのだ。
舞台上から、巨大なピアノさんたちが、一斉に、空を飛んだのである!
舞台を滑走路としたピアノさんたちは、次々に人間たちに襲い掛かった。
ほかの楽器さんたちも、それに続いた。
打楽器のバチにぶったたかれるくらいは、良い方である。
楽器さんたちは、死に物狂いである。
ユーフォニウムさんは、人の頭に被さり、トロンボーンさんがその足元を掬った。
金管楽器のマウスピースが、兵士のお口の中に大量侵入した。
リード楽器のリードが、音速以上の速度で目の中に突っ込んでくる。
ティンパニさんが、兵士の頭から降ってきた。
ハープさんに、張りつけなる兵士もいた。
トランペットさんが、耳元にやってきて、叫ぶ!
しかし、グランドピアノさんの破壊力は、比較を絶するものである。
あの巨体が、人間めがけて空中を飛んでくるのだ。
人びとは、逃げ回ろうとしたが、あまりにつめ込まれたうえ、出口が一か所しかないから、それはもう、悲惨な状態であった。
合衆国総理は、卑怯にも、逃走を図ったが、そうは行かなかった。
5台ほどの、最大級のグランドピアノさんたちに囲まれて、ついには、ぐっちゃりと、押しつぶされたのである。
北海道首相は、その場で逮捕された。
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このクーデターは、全世界にすぐに報道された。
北海道首相が果たした役割は、それなりに解明されたのだが、肝心な部分・・・・すなわち、なぜ、楽器たちが自ら反乱したのか?
誰が、操ったのか?
そこらあたりは、どうしても真相がわからないままになったのである。
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『まあ、むかしは、家具なども年を経れば化け物になった。そういうことよ。』
北海道首相は、そう、述べたのであるが、自分の関与は、あくまでも、武器の使用が出来なくなるようにしたところまでだ、と主張した。
彼女のシステムは、それを裏付けていたのである。
やがて、新政権が出来て、彼女は釈放されたが、北海道首相の座は辞任した。
それから、まだピアノさんや、そのほかの楽器さんたちのあわれな残骸や、使用不可能になった武器が、高く積もったままの、封鎖されたあの会場の傍に現れた彼女は、こう、祈ったのである。
『おろかな指導者は、人類の最後までいなくならない。しかし、彼らは永遠には続かない。きっとね。おそらくはね。あらら、違うかしら? あなたたち、どう思う?』
************ 🎹 🎻 🎷 🎺 🎹 *** おしまい
『ピアノさんたちの逆襲』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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