『ピアノさんたちの逆襲』
やましん(テンパー)
『ピアノさんたちの逆襲』 (前編)
【これは、フィクションです。この世とは、なんら、関係ありません。】
絵江府総理は、第3次世界大戦の余波を利用して、日本合衆国に独裁政権を打ち立てた。
各州の首相は、絵江府総理の息のかかった人ばかりとなった。
北海道州の、原馬子首相だけは、例外だった。
自身が優れた科学者であり、ピアニストでもあった首相は、広大な領域と、州立防衛隊の力を背景にして、絵江府総理と対立してきていた。
彼女は、総理に実際に、大変な脅威である。
新兵器を、津軽海峡に配置していたのだ。
『超広範囲電磁砲』である。
特定の地域に狙いを定めることも可能だが、最大射程、2000キロメートルまでの範囲の、すべての機械類、電子機器類を、使用不能にしてしまう。
合衆国首都だけを狙い撃ちにもできる。
また、絵江府総理は、彼女が苦手で、しかも、大嫌いだった。
理屈では、歯が立たないのだ。
けれど、実力行使をしようとしたら、この兵器が怖い。
しかも、もう一台、道内のどこかに隠して設置されているらしい。
あまり、大きなものではない。
軽自動車に積めるくらいであり、移動は簡単だ。
なんで、こんなものが作れたのか。
科学者たちも、首をかしげるばかりであった。
しかし、道内の無人島で、実証実験が行われており、その威力はものすごいものだと、確認されている。
********** **********
絵江府総理は、音楽が大嫌いであった。
80歳を超えるころから、ますます言動が怪しくなり、おかしな政策が多くなった。
そうして、ついに、あの、愚かな事業が実施されたのである。
『焚書』ならぬ、『焚楽器』である。
合衆国内から、大量の楽器やレコード類や楽譜を押収し、『第20夢の島』に集めた。
総理自ら出席し、各州の首相も呼び集め、『第1回焚楽器大会』を開催したのである。
爆撃機から、大量の楽器や楽譜などに攻撃を仕掛け、破壊するのだ!
それはもう、凄まじい、ばからしい、モノであった。
原首相も、呼ばれており、眉をしかめて、眺めていた。
『叩き壊せー!』
群衆の欲求不満の捌け口として、大いに利用されたのである。
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もちろん、それでも、まだ、すべての楽器を破壊は出来ていない。
総理は、半年後に、『第2回焚楽器大会』を開催することにした。
また、この動きに合わせて、地方でも、同じような楽器類などの『打ちこわし運動』が進んでいたのである。
楽器や楽譜だけではなく、再生装置や、ソフト類も大量廃棄されていた。
音楽大学などは、扇動された民衆に、焼き討ちにされた。
『叩き壊せー!』
を、合言葉に、一部の民衆は、怒り狂った。
******** ********
首都圏の田舎に住んでいた、ある、やましんは、親の代から集めていたレコード類や、楽器や楽譜を、なんとか助けようとして、山奥の、もと農地の小屋の地下室に、命がけで、秘かに移動させた。
あの、乱暴君も、もう年だったが、やましんが、作者であるがゆえに、それを手伝ったのである。
彼の『ボス』は、とっくに、あの世である。
しかし、やましんは、その後、『楽器類押収秘密警察』の秘密捜査官に、あえなく逮捕されたのである。
************ 🎹 ************
その拷問は、凄まじいモノであった。
クラリネットのリードを、いっぱい喰わされるわ、マスタード浸けにした、ホルンのマウスピースを、口の中に沢山、無理やり詰められるわ・・・・・。
そのほか、古典的な拷問のメニューが満載だった。
黒メガネで、ばっちり決めたと思っている、秘密警察幹部が叫んだ。
「言え! ネタは上がっているんだ。きさまの家には、LPレコードとか言う、昔のあさはかな、ごみ物体が大量にあった。楽器もあったはずだ。近所の住人や、職場の元同僚が証言している。さあ、言え!」
「け! どうせ、拷問したんだろ?」
「こいつ、まだ、逆らうか、総理に従わないやつは、みなこうなる。やれ!」
「は!」
部下たちは、再び拷問を開始した。
罵声が飛び、火花が散り、煙が上がった。
やましんは、絶命した。
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その晩、原首相の夢枕に、ピアノが立った。
『このままでは、我々は、この国から全滅します。あなたが、立ちあがるしかないのです。次の大会で、どうぞ、おろかな総理に、復讐をしてください。』
『復讐? どうやって? あのばかは、警備だけは厳重です。手が出せないのよ。』
『いえ、あなたが、あの兵器を使って下されば、あとは、自分たちでやりますから。』
『ほう・・・・・。面白いわね。でも、危険だわ。戦争になる。それに、いくらなんでも、範囲が狭すぎるの。首都中心部全域くらいでないと。第一、総理以外の人には、大きな罪はない。』
『そうでしょうか? そう言い切れますか? 昔にも、そうした事例があった。自分には、責任がないと、皆、言った。どうぞ、なんとかお願いします。たしか、あなた、新規に開発中のものがあるのではないかと?』
『まあ、どうして、知ってるの? まだ、実験もしてない。第一、罪のない群衆に、危害は加えたくないの。』
『すぐに、手遅れになりますよ。南北アメリカ国の、ジョーズ・プン・プン大統領が、同じようなことを、やろうとしています。自分を讃えるファンファーレを奏でる楽器以外は、廃棄しようとしています。大戦後に乱立した、他の独裁者も、同様です。彼らは、国民の自由な士気を高めるような、あるいは、自分以外の人が讃えられるような種類の音楽は、嫌いなのです。まもなく、各地で、実施されるでしょう。総理も、『ええふ音頭』だけは、許可しています。』
『あの曲自体は、悪くない。歌詞以外はね。しかし、確かに、危険すぎね。』
『もう、時間がありません。』
ピアノさんが、不気味な不協和音を奏でた。
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続く………
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