第12話 夢のあと

 肩を揺さぶられて、花笠花織は眼を覚ました。

 見たこともない男が、何事かを口にしている。

 血塗れの彼の姿に、本能的に危険を感じて、その手から逃れようともがいた。

 だが、よく聞けば、彼はこちらの安否を気遣っているらしい。「大丈夫か?」という言葉が何度も耳朶を打つ。

 まだ熱をもった頭で、夢を見ていたことを思い出した。

 どんな夢だったのかまでは解らない。ただ、漠然とした余韻だけが残っている。

 良い夢だった、と。

 花織の感覚は次第に広げられていく。

 石畳の冷たさ、懸命な蟲の鳴き声、草木の匂い、鏡のような月の放つ優しい光。

 そこで初めて、自分が何処にいるのかを認識した。

 丹塗りの鳥居が、立っていた。

 数えきれぬ程の鳥居が、隧道をなしていた。

 壮観な光景に思わず息を呑む。

 写真でもなく、夢でもなく、現実なのだと、五感がそれを教えてくれる。

 ずっと見たいと思っていた丹塗りの鳥居は、震えるほど美しく、そしてどこか物悲しかった。

 言い様の無い寂しさが幻痛となり胸を締め付ける。

 花織の白い頬を、一筋の雫が滑り落ちていった。


                                  つづく


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