第九話
「ネリ! 待ちなさいよ!」
少し先に水龍に乗って、森をかけるネリの姿が見える。
要するに、飛行艇を追いかけてきたドラゴンがいるということだろうか。
森に墜落したという飛行艇は夢に出てきた。
確か、ていこくへいが乗っていたはずだ。
あの夢を思い出す。
すべてを破壊せんとばかりに攻撃するドラゴンと抵抗するていこくへい。
どうすることもできない恐怖がよみがえる。
アンはぎゅっと手綱を握りしめた。
大丈夫、あれはただの夢だ。
怖くない、怖くない。
深呼吸をして、前を見る。
ネリはまだ前を走っている。
このままついていけば、いずれ追いつくはずだ。
しばらく走らせていると、開けた場所に出た。
墜落したと思われる飛行艇がごうごうと燃え盛っていた。
周囲には誰もおらず、乗組員の姿は見えない。
「これって……」
何者かに引きずり降ろされた。
そこにネリがいた。
彼に口をふさがれ、しゃべることができない。
隣にいたガルムが水龍を座らせ、草陰に隠す。
「静かにしろって。ほら、あそこ」
ネリの示した先には、ドラゴンがいた。
大きな翼を広げ、空を飛び回っている。
「アンも来たんだな……」
ガルムは天を仰いだ。
先に森の様子を見ていた彼の表情は、実に険しいものだった。
「おじさん、ごめんなさい。ネリを止められなくて……」
彼はため息を一つつき、視線をドラゴンに戻した。
「おそらく、あの飛行艇はあいつから逃げてきたんだ。
その途中であいつの攻撃にあって、ここに墜落したんだ」
「なあ、何とかならないのか?」
ガルムは首を横に振った。
ネリたちの乗ってきた水龍もドラゴンの一種とはいえ、戦闘用に訓練されていない。
彼らでは太刀打ちができない。
まともな武器も持っていない以上、あのドラゴンに対抗するすべがない。
「ねえ、あれ!」
アンの指さした先に、何者かがいた。
逃げ遅れた乗組員だろうか。
燃え盛る船の後ろから、姿を見せる。
空を舞っているドラゴンはすぐに彼に気付いた。
彼に向かって攻撃をしようと、口を大きく開けた。
気づくと、アンは走り出していた。
どうにかして、助けなければならない。
「やめて! 攻撃しないで!」
彼女は両腕を広げ、乗組員の前に立った。
あの夢の影響だろうか。
傷つき、倒れる人の姿は見たくなかった。
「アン!」
ネリが彼女を追いかけようとした、その瞬間だった。
ドラゴンは口を閉じ、攻撃するのをやめたのだ。
「え?」
小さく声を漏らす。
ドラゴンは彼女の前に降り立ち、静かに頭を伏せた。
敵意は感じられない。
いったい、何があったのだろうか。
不気味で仕方がない。
「アン! 大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫。そうだ、この人を助けないと!」
後ろを見ると、乗組員の姿はなかった。
「うまいこと逃げたらしいな」
ガルムがそうぽつりとつぶやいた。
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