第十一話


「離してよ! こら!」


アンはじたばたと手足を動かす。

ドラゴンは絶妙な力加減で彼女を咥え、びくりともしない。

大きな翼を広げて、空を悠々と飛んでいく。


アンを咥えたドラゴンの左右に一頭ずつ並び、列を組んでいた。


エルフの森からどんどん離れ、村を越えていく。

村を越えた先は田園地帯が広がり、その先にまた森が広がっていた。

ドラゴンたちは森の開けた場所に舞い降りた。


「ちゃんと連れてきたのね」


その場所の中心には、黒いローブをまとった人が立っていた。

中心にいたドラゴンは咥えていたアンをゆっくりと降ろす。


「よしよし。後でごほうびをあげましょうね」


嬉しそうに目を細めながら、ドラゴンの鼻先をなでる。

首からアンと似たようなネックレスを下げていた。

銀色の鎖に魚のうろこに似た宝石は見覚えがあった。


「あの……」


「初めまして、アン。

私はノバ。魔導士をやっている者よ」


そう言いながら、ローブを外す。

艶やかな茶色の髪をした女性だった。

両目は垂れ下がり、優し気な表情をしていた。


「ノバ……?」


「急にこんなところに連れてきてしまって、ごめんなさいね。

けど、どうしてもあなたとお話がしたかったの」


微笑みながら、しゃがみこむ。

アンもその場に座り、彼女と視線を合わせる。


「飛空艇が墜落したり、エルフの森が火事になったり、朝から大変だったでしょう?

よかったら、これでも飲んで? 少しは気分が落ち着くはずよ」


「何でそのことを知ってるんですか?」


「信じられないかもしれないけれど、私、ずっとここから見ていたの。

ほら、この子たちに仕事を任せていたから」


ノバと名乗った女性はドラゴンのほうを見た。

ドラゴンたちは両足をたたみ、器用に座っていた。


「あの子たちは十分頑張ってくれてたもの。

ちょっとは休ませてあげないと」


彼女は懐から金属製の瓶を取り出した。

蓋を外すと、ふわりと湯気が立った。


「これ、私のお気に入りなの。

あなたの口に合うといいのだけれど」


「……」


彼女は外した蓋の中に、瓶の中身を注ぐ。

赤茶色の液体が蓋の中に満たされていく。


「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。

変なものは入れていないわ」


柔らかな笑みを浮かべ、アンに差し出した。

こぼさないように慎重に受け取る。

匂いをかぐと、体全身をめぐるような心地のいい香りがした。


「このお茶、すごくいい香りでしょう? 体にもいいのよ」


ノバはニコニコと笑いながら、懐から杯を出す。

自分の分を杯についで、一口飲む。


自分で持ってきた飲み物に危険物を入れるような真似はしない。

本当にただのお茶なのだろう。


「いただきます」


ゆっくりと口に近づけて、口に含む。

独特な香りと温かさが口いっぱいに広がる。


「おいしい……」


自然とその言葉が漏れた瞬間、彼女の意識は闇に落ちた。





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