封印されし龍と運命のつるぎ 第五話・第九話・第十一話

長月瓦礫

第五話


その夜、アンは夢を見た。


その夢は幼い彼女にとって、悲惨なものであった。


一番印象的なのは大きな翼を広げて、夜空を舞うドラゴンの姿。

何体ものドラゴンが遠くから飛来し、何もかもを破壊しようとしていた。


また、飛行艇で戦っている人々がいた。

ていこくへいと呼ばれた彼らは、何度斬られても立ち上がっていた。

抵抗する人々に攻撃され、全身が傷だらけになっている。


例え、腕を斬り落とされようとも、ていこくへいは立ち上がる。

空っぽの表情で、彼らは戦っていた。


そして、それに抵抗する人々がいた。

はーしぇるという人を中心にして、戦っていた。

彼らは武器を手にして戦い、火の手が上がる飛行艇を消火していた。


はーしぇるたちはていこくへいに、ドラゴンたちに抵抗していた。


しかし、ドラゴンたちにとって、はーしぇるたちは小さな存在だった。

ある人は叫び声をあげ、ある人は体を切られ、またある人は龍が放つ炎によって焼かれていた。


どうして夜空の上で争っているのか。

どうして人間とドラゴンが戦っているのか。

理由は分からなかったが、とにかく状況は絶望的だった。


そして、この戦いを見守っている人がいた。

その人はこの場所からはるか遠い国にいることしか、分からなかった。


男か女かは分からない。全身をローブで覆い、表情は見えなかったからだ。

首からネックレスを下げていて、その宝石がアンの物とよく似ていた。

銀色に輝く鎖の先には、魚のうろこに似た石が取り付けられていた。


「そろそろかな……」


小さな声でそう呟いた。

その人が両手をあげたその瞬間、悪寒が走った。


「やめて!」


もっとひどいことが起きる気がした。

その人を止めようとして、手を伸ばした。


だが、伸ばした右手は空を切った。


「……」


見慣れた天井が目に入った。

上を向いたまま、右手を挙げている。


あの後、ネリと一緒に帰宅し、眠りについた。

今は何時だろうか。部屋は暗く、時計もよく見えない。


「何だったの、今のは」


全身に汗をびっしょりとかいており、服が肌にまとわりつく。

ゆっくりと体を起こした。


「夢……?」


ここからはるか遠い場所で、ドラゴンと人間が戦っていた。

そして、アンと似たようなネックレスを持つ誰か。

すべて夢なのだろうか。


夢であることを祈るしかない。

あんなことがこの世界で起きてほしくない。


それに、ドラゴンが存在するといっても、見たことがある人はほとんどいない。

彼らを従えるなんて、もってのほかだ。


ゆっくりと何度も深呼吸をする。


「ぜんぶ夢、なんだよね?」


枕元に置いたネックレスを祈るように、ぎゅっと握った。

どうか、悪い夢でありますように。


彼女はそう願いながら、再び眠りについた。




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