キリーの町


 このキリーの町は、天然の要害によって守られている。

 キリーは海に浮かぶ沖合の島である、ほぼ四方を断崖に囲まれ、町に入るには方法は二つしかない。


 一つは海の玄関で、細長いクネクネと入り組んだ、フィヨルドの湾が島に食い込んでいる。

 このフィヨルドの先に港があるのだが、この湾には危ない怪物はいない。


 この湾の海水は真っ赤なのである、湾内に流れこむ川の流域には、タンニンを含んだ植物が群落する、湿原が果てなく広がり、その植物からのタンニンを、川が集めて湾に流れ込み、湾の海水の上に、比重の軽いタンニンの水が浮いているのである。


 この赤い水はかなりの層になっており、塩分がなく分厚い層になっている。

 ウミサソリキングは淡水生物ではない、しかも海水部分にはタンニン層のお陰で日が届かない。

 その為か、エラムの近海にウヨウヨする、巨大な海洋生物は此処にはいない。


 湾口は巾が五十メートル程度しかなく、しかも小島や浅瀬、暗礁が点在し、湾を守っているのである。


 漁師たちは、この湾口で漁をしているのである。

 時々はキリーの沖を遊弋する、最大六メートルぐらいにもなる、テラでいうところのイクチオデクテス、通称『ブルドッグ・フィッシュ』に似ている、ここらでは『凶暴魚』と呼ばれる魚を釣り上げてくる。


 かなりでっかい顔で、これまたでっかい歯が並んでいる。

 極めて醜い魚ではあるが、これが案外にうまい。

 この『凶暴魚』の干物は高級品で、キリーの特産品なのである。


 まだまだキリーの沖には、危ない魚が泳いでいる。

 中でも最強は『帝王魚』と呼ばれる、テラでいうなればダンクルオステウス、最大九メートル、堅い甲羅で覆われた体で銛も効かない、ただこいつは美味しくない。


 これらの化物魚たちはこのタンニン水を異常に嫌う。

 湾口から流れ出るタンニン水は海流にのり、かなりの沖合いまで川のように流れ出ている、それは化物魚の遊弋する海域を通り抜け、キリーにいたる海の道を形成しているわけだ。

 この細い海の道を抜けるためには、熟練の水先案内人が必要となる。


 もう一つの入り口は、陸に向かって開いている。

 キリーのある島は、砂洲で陸地とつながっており、その細長い砂洲を通る道がある。


 ただこの砂洲は、ウミサソリキングの生息地、そのため鉄の籠に、車輪をつけた物の中に入り、押しながら砂洲の道を通るのだ。

 この特別な車がなければ、ウミサソリキングを片付けながら通るしかないが、その様な者は伝説の中にも数えるしかいない。


 そんな地獄の様な砂洲を、涼しい顔で歩いてきた者がいた。

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