他所者


「だれか、こちらに歩いて来ます!」


 !


「無知な者は死ぬだけだ……」


 しかし、何事も起こらない……

 乾期の日射しが、その者たちを祝福するように照らしている。


 ゆらゆらと、陽炎の様なシルエットが近づいてくる。

 そして、それは三人の女性と判明、さらに近づいてくる。


 その女たちは揃いも揃って、信じられないほどの美しい娘……

 そして平然と砂洲を歩いている……


 足元でウミサソリキングが一瞬、出現するのだが、なぜか風が吹き消していくのだ。


 キリーの住人は驚愕の面持ちで、その女たちを凝視していたが、ミハエルはとにかく警戒をすることにした。

「魔女か……」

 呟いては見たが、この世界の魔法士になせる技ではない……


「長老……いかがすれば……」

「とにかく迎えるしかない……相手は人智を超えていると思う……抵抗は死を呼び込みそうだ……」

 ミハエルの言葉に、キリーの住人は同意するしかなかった……


 鮮やかな日射し、白い砂浜、青い海、そして美しい女たちが歩いている。

 そんな絵のような光景を、キリーの住人は背筋の凍る思いで見つめていた。


「とにかく女子供は家から出るな!皆の衆は、さり気なく通りにたむろしていろ!」


 キリーの陸の玄関でもある、この砂洲の道は、町の中心部に通じている。

 城門で女たちは素直にチェックを受け、町に入ることを許可された。


 ミハエルは網を触りながら、女たちを見つめていた。

 すると中の一人、どう見ても主のような女が声を掛けてきた。


「こんにちは、どこかに泊まれるところは無いですか?」

 ミハエルは確信した、この女たちは尋常ではない、とくにこの女……

 黒の巫女様がいるなら、此の様な女だ……


「嬢ちゃんたちはどこから来たね?」

「アルジャから来ました」


「えらい別嬪さんじゃな、良くこんなところへきたものじゃ」

「ご存知のようにアルジャは山間の僻地、私たちは海を見に来ました」


「なるほど、しかし海は危険な場所、海獣が出るのを聞いておるだろう?」

「大丈夫です、私は魔法士です」

「ここへくる途中にも、さそりの様なものが襲ってきましたが、退治しました」


 あっさりと云いますが、目的については見え見えのデマカセととれる。

 しかし悪意のないように見え、ミハエルは、

「警戒せんでもいい、失礼したの、一応、嬢ちゃんたちはよそ者でな、警戒するに越したことはないのでな。」

 そして、正直にいって見ることにした。


「頼みがあるのじゃが、ウミサソリキングをやっつけた、魔法の腕を見せてくれんかの」

「まぁ話は本当と思うが、あのウミサソリキングは、なかなかのものじゃから」


 もし、こちらの申し出を受け入れてくれたら、警戒を解いて女たちを歓迎しよう……

 なにせ比類なき力を持っている女、キリーの町にとっても、歓心を買うのは有意義だ……


「分かりました、ウミサソリキングはどこにいますか?」

 女はそう云ってくれた。


 女主人はヴィーナスと名乗った、そして後二人は、サリーとアリスといった。

 案外に気さくで優しい女たちで、町の若い衆には超人気……


 しかしヴィーナスの前に出ると、若い衆はだらしない、気後れして何も喋れなくなる。

 だが町の娘たちは違った。


 エラムでは女性婚は何ら不思議ではない、しかも多妻制……

 娘たちは、ヴィーナスにものすごいモーションをかけている。


「ヴィーナス様!私を側室に!」

「私も!」

 などなど……


 やはりな……ヴィーナスさんには男を感じる……女たちは無意識に感じるのだろう……

 それにしても、若い衆は情けない……

 そんな事を思っていたミハエルに、困った問題が発生した。


 ビアンカがヴィーナスに惚れたのだ。



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