家庭婦人課程へ留学


 ビアンカは変わってしまった。

 いつもどこか違う世界にいるような目をしている。


「ビアンカ!」

 はっとしたのか、「なあに?」と、間を置いて返事を返す始末……


 これはいかんな……

 ミハエルとしては、孫娘の恋煩いを何とかしてやりたいと思うのだが……


 この頃には、ヴィーナスの正体も判明し、ビアンカの恋はとんでもない高望みと知れたが、恋する乙女はあきらめられない、でも……相手が相手……


 ヴィーナスの回りには綺麗な女たちばかり……

 可愛いといえど田舎娘のビアンカでは……

「私なんて……」

 鏡を見ながら落ち込んでいくばかり。


 どこかにいい男でもいないのか?

 女性婚でも構わないが、やはり子孫が残せる男との婚姻のほうが、望ましいのは当然のこと。


 ミハエルは若い男を物色するが、ここへ来てビアンカの肘鉄のつけが来た。


「今更……それにヴィーナス様にのぼせているのでしょう?好きになってくれない女をもらってもね」

「ビアンカって可愛いけど、あの天然といると傷つくのでね」


 などなど……

 知らず知らず、ビアンカの値打ちは下がっていた。


 確かにビアンカに妻は務まらん……死んだ息子に顔向けできんな……

 ミハエルの息子は、妻と一緒に漁に出て、突然の高波にのまれたのだ。

 以来、ビアンカを猫可愛がりしながら育ててしまった……


 良い娘だが、物を知らなすぎる……

 女としての嗜みは叩き込んだが、男のあしらい方は教えなんだ……十八か……


 ミハエルは、ビアンカを留学に出すことにした。

「ビアンカ、良い男を探してこい、そしてその男を連れてこい!」

「お祖父様……」

 さすがのビアンカでも祖父の気持ちは理解できた。


 ミハエルはツテを頼りに、ビアンカをカルシュの学問の府の女子部に入学させたのだ。

 この学問の府の女子部には、家庭婦人課程というものがあり、独身の娘を受け入れている。

 いわゆる花嫁課程、一応四則計算と読み書きを学ぶことになるが、婦人学がメインなのである。


 婦人学とは、はっきりいって夜の嗜み、間違わない男の選び方、昼は貞淑に、そして夜はそれなり……を学ぶのである。


 本課程とは違い、この家庭婦人課程は、妙齢の良家の子女ばかりが集まるのである。

 家庭婦人課程は一年である、そして一応全寮制となっている。


「新入生の方?」

「はい、ビアンカともうします」

「綺麗な方ね」


 ……私なんて……


 ここには、エラム全域から女学生が集まっている。

 ホッパリア、リゲル、ジャイアール、シビル、ロンディウムなどなど、中にはハニーやカスバ、トレディアの出身者までいたが、誰もキリーなど知らない。


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